今月のイチオシ本【ノンフィクション】

『平成犬バカ編集部』
片野ゆか
集英社

 平成最後の戌年が終わった。思えば、この30年でペットとの付き合い方は大きく変化した。

 本書は「Shi-Ba」という日本犬専門情報マガジンの創刊から100号までの歴史をたどりつつ、平成の犬現代史を俯瞰していく。そもそもこの「Shi-Ba」はひとりの愛犬家編集者が執念で始めた雑誌だということに驚かされる。

 版元は辰巳出版。パチンコやパチスロ、つりなど男性・青年向けの娯楽情報出版物を得意としていた。そこに後に編集長になる井上祐彦が「日本犬の専門誌」を創刊させようとプレゼンを行ったのが平成13年(2001年)。当然幹部たちは否定的だった。それを覆したのは社長の鶴の一声「やってみな!」だが、100号まで続く人気雑誌になるとはだれも思っていなかったに違いない。

 井上は自分の愛する柴犬、福太郎を紹介する雑誌を作りたかったのだ。当時日本犬の専門誌はなかった。人が大好きな洋犬が人気になり、犬を家の中で飼うことにも忌避感はなくなっていたが、それでも日本犬に対してはまだ「番犬」というイメージが残っていた。

 ここから井上のアイデアが冴えわたる。意表を突く創刊号の表紙。"犬バカ"の飼い主への熱いメッセージ。福太郎をモデルに使い、編集者やライターも"犬バカ"に育ててしまう。今までの日本犬に対する常識も覆し「Shi-Ba」は多くの読者を獲得していく。今では世界的な日本犬ブームとなった。

 犬の飼い方も大きく変化した。厳しいしつけやヒトがリーダーになるべきかなど常識も日々更新されている。エサや薬、治療が進歩し長寿になった反面、犬の認知症や介護などが問題になっている。

 東日本大震災をはじめとした災害により飼い主と離ればなれになったペットをどうするかという問題にも光が当たり、 ペット同行避難の考え方も広まってきた。 "犬バカ""猫バカ"はさらに増えている。高齢化、少子化の日本でペットはさらに重要な存在となるだろう。人にもペットにももっと優しい時代になってほしいと心から願う。

(文/東 えりか)
〈「STORY BOX」2019年2月号掲載〉
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