今月のイチオシ本 【ミステリー小説】

『人面瘡探偵』
中山七里

小学館 本体1600円+税

 手続きや協議の支援をはじめ、相続に関するマネージメントを請け負う「相続鑑定士」である三津木六兵には、常に行動をともにする〝ジンさん〟なる相棒がいる。濁声の毒舌家で、六兵を「ヒョーロク」と呼んで小馬鹿にするが、その頭脳は明晰にして博学。じつに頼りになる存在だ。しかし、周囲のひとは誰も〝ジンさん〟に気がつかない。なぜならそれは、六兵の右肩に寄生する人面瘡だから。

 中山七里『人面瘡探偵』は、切れ者人面瘡とボンクラ宿主という前代未聞のコンビが主役を務める長編だ。

 信州随一の山林王と呼ばれる本城家の当主──蔵之助が亡くなり、三津木は顧問弁護士を介して依頼を受け、急ぎ現地に赴く。当初、残された山林に遺産としての価値はないと思われたが、三津木の調査によって、じつは思いもしなかった価値があると判明。本城家のひとびとによる遺産をめぐる骨肉の争いは、蔵で焼け死んだ長男を皮切りに、つぎつぎと相続人が変死を遂げていく事態に……。

 帯に描かれた〝ジンさん〟のイラストに「俺の趣味にぴったりだ。好きなんだよ、こういう横溝的展開」という吹き出しが添えられているとおり、舞台は信州、忌まわしき一族が繰り広げる相続争い、何者かによる見立て殺人といった内容は、まさに限界集落が舞台の令和版『犬神家の一族』だ(そういえば「人面瘡」という金田一耕助シリーズの短編があるので、その意味でも横溝的といえるか)。

 罵られ、呆れられ、果ては操り人形のように〝ジンさん〟の推理を披露することになる三津木だが、事件の真相もさることながら、〝どんでん返しの帝王〟が最後の最後に用意したサプライズには絶句するしかない。登場人物のひとりが「とんでもなくアブないヤツだったのかも」と震え上がった相手が誰なのか、ぜひ見届けていただきたい。

 ちなみに、小学館のPR誌『きらら』二〇一九年十二月号から、早くも続編『人面島』(わはは、今度はそう来たか!)の連載が始まっている。大横溝を嬉々として傾くこのシリーズから、ますます目が離せない。

(文/宇田川拓也)
〈「STORY BOX」2020年1月号掲載〉
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