今月のイチオシ本【ミステリー小説】
『廃遊園地の殺人』
斜線堂有紀
捨て置かれ、ただ時とともに朽ちていく建造物──廃墟。それは建物の遺骸と捉えることもできるが、遺跡や動物のはく製を見て覚えるものとはまた異なる情感をもたらし、なぜか妙に心を惹きつける。この得もいわれぬ退廃的な魅力の正体とは何なのか。斜線堂有紀『廃遊園地の殺人』は、その答えの一端を垣間見せてくれる長編本格ミステリだ。
山一帯を買い占めた広大な土地に複合型施設を建てる大規模なリゾート計画。その目玉であるテーマパーク「イリュジオンランド」だったが、プレオープンの日に四人の命が奪われる銃乱射事件が発生し、あえなく廃園となってしまう。
それから二十年後、この場所は十嶋庵なる資産家によって買い上げられ、選ばれた人間にのみ公開されることに。集められた廃墟マニアやかつての関係者らはそこで、この廃遊園地の所有権を懸けた宝探しへの参加を告げられる。隠された〝宝〟とはなにか? すると参加者のひとりがうさぎのマスコットキャラの着ぐるみを着けた状態で鉄柵に突き刺さって死んでいるのが発見され、そしてさらなる事件が……。
ふたり殺すと〝天使〟によって否応なく地獄に引き摺り込まれる世界を舞台にした『楽園とは探偵の不在なり』(早川書房)では、手本として挙げたくなるような特殊設定の使いこなし方が光ったが、本作でも本格ミステリに通じているからこその所作のひとつひとつが素晴らしい。フェアな情報とヒントの提示、伏線の活かし方、容疑者の絞り込みから解決編に至る流れとその先の見せ場などの美点が、いわくつきの場所に集められた人間たちの間でつぎつぎと殺人事件が起こるオーソドックスな型に並べられることで、よりいっそう際立っている。
そんな優れた謎と論理の物語は、同時に廃墟に魅せられた者の物語でもある。終盤、まるで廃墟が断末魔の叫びを上げるような場面がある。廃墟とはつまり、ひとから忘れられて初めて「廃墟」となるのだと痛感する。そして誰からも忘れられた存在に心惹かれるのは、そこに世俗の超越を覚えるからかもしれない。
(文/宇田川拓也)
〈「STORY BOX」2021年11月号掲載〉