今月のイチオシ本【歴史・時代小説】

『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』
武川 佑

千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女

文藝春秋

 デビュー作『虎の牙』、二作目『落梅の賦』と戦国時代の武田家にこだわってきた武川佑は、三作目となる本書で、架空のヒロインを主人公に、先行作が少ない室町六代将軍・足利義教の時代を舞台に選んだ。迫力の戦闘シーンや重厚なテーマを継承しつつも作風を広げたところは、新境地といっても過言ではない。

 足軽の父と比叡山坂本で暮らす少女・小鼓は、僧の義圓(後の義教)の焼き打ちに遭う。義圓が捜す良兼が父のことであるらしく、義圓に仕える少年・大宝から父をかばった小鼓は左腕を切断された。

 家族を失った子供たちを引き取り職業訓練をする義圓の施設に入った小鼓だが、女性で障害もあるので将来に不安を感じていた。義圓に父から教わった兵法の才能を認められた小鼓は、父の師だった満済の教えを受けることになる。

 なぜ父は義圓に追われ、なぜ反幕府勢力に加担するのか? この謎に加え、父が盗んだ宝の行方も物語を牽引していくので、波乱万丈の展開が楽しめる。

 籖引きで将軍になり名を義教に改めた義圓は、九州の反幕派の討伐を決める。敵方に父がいると知った小鼓は、真意を聞くため将軍名代に従い九州に向かう。

 小鼓は、九州で足軽十人を率いるも男より出世が遅いことに不満を持つ女・瀬良と出会う。瀬良の鬱屈が現代の働く女性に近いだけに、小鼓が兵法というスキルを使って瀬良を助け、男が尻込みする困難な任務にも挑むところは、特に女性読者には痛快に思えるのではないか。

 やがて小鼓は、父を追って東国にたどり着く。西国の上意下達しか知らなかった小鼓は、東国が身分を問わない寄合の合議で方針を決めていることに衝撃を受ける。義教の命令を絶対視していた小鼓が、義教の問題点に気付き不正に立ち向かうと共に、自身がマイノリティであるがゆえに弱者が安心して暮らせる国を作ろうと奮闘する後半は、現代の日本にも必要なことばかりなので感動も大きい。

 短期間では改革が完成しないので、小鼓は次世代に継承する方法も模索する。本書を読むと、現代人がそのバトンを受け取れているかも考えてしまうだろう。

(文/末國善己)
〈「STORY BOX」2021年5月号掲載〉

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