今月のイチオシ本【警察小説】

『ボーンヤードは語らない』
市川憂人

ボーンヤードは語らない

東京創元社

 海外の警察ドラマでは近年日系のキャラクターも珍しくなくなったが、純粋の日本人となると話は別。してみると本書に登場する九条漣なんか稀有な例だといいたいところだが、彼の出身はJ国で、所属するフラッグスタッフ署があるのも、アメリカならぬ平行世界のU国だ。

 本書は第二六回鮎川哲也賞受賞作『ジェリーフィッシュは凍らない』から始まる〈マリア&漣〉シリーズの第四作で、初の短篇集に当たる。全四篇収録。

 冒頭の表題作では、A州ツーソン市郊外の空軍基地にある「飛行機の墓場」で兵士が変死体で発見される。被害者が発見されたのは夜間巡視中。そんな場所で何をしていたのか。彼には軍用機部品の横流しに関与していた疑いもあった。士官候補生時代に兵士間で起きた同類の事件に心残りのある指揮官ジョン・ニッセン少佐は、小型飛行船ジェリーフィッシュの事件で知り合ったフラッグスタッフ署のマリア・ソールズベリーと九条漣の知恵を借りることに。

 読みどころは飛行機の墓場での事件の顛末もさることながら、それをきっかけに漣とマリアも、それぞれの痛い記憶が掘り起こされていく点にある。

 続く「赤鉛筆は要らない」は漣の高校生時代の話で、彼は学校からの帰途、新聞部の先輩・河野茉莉の屋敷に泊まることになり、密室殺人事件に直面する。

 三篇目の「レッドデビルは知らない」はマリアのハイスクール時代の話。彼女はG州アトランタ市郊外の名門校に通っていたが、ものぐさで荒っぽい劣等生。白人至上主義がはびこる閉鎖的な校内では浮いた存在だった。そんなマリアの唯一の親友が黒髪のハズナ・アナンだったが、やがて思いもよらない悲劇が……。

 そして最終篇「スケープシープは笑わない」はマリアと漣が初めてバディを組んだ事件の顛末が描かれる。朝、署の緊急通信指令室に幼児の声で救急要請が入るが、発信場所は不明。マリアの推理で家が特定されるが、そこには平和な三世帯同居家族が……。各篇とも凝った謎解き趣向が楽しめるのはいうまでもなく、本シリーズ未読な方にもお奨めだ。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2021年8月号掲載〉

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