今月のイチオシ本【警察小説】

『北緯43度のコールドケース』
伏尾美紀

北緯43度のコールドケース

講談社

 ミステリー新人賞には何年かおきにメモリアルな年が訪れるものらしい。老舗の江戸川乱歩賞では今年がそれに当たるようだ。一〇年ぶりの二作受賞で、そのうちの一作は九年ぶりの女性受賞者。

 桃野雑派『老虎残夢』が一二世紀の南宋時代の中国を舞台にした武侠小説仕立ての本格ミステリーであるのに対し、一方の伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』は現代の北海道を舞台にした警察捜査小説と、作風も際立って対照的だ。

 どちらも読ませる力作だが、ここでは後者を取り上げたい。

 主人公の沢村依理子は三〇歳で北海道警察に入った大学院出のエリートノンキャリア。二〇一七年、札幌中南署捜査一課で現場研修についた彼女は、切れ者の瀧本刑事から現場のイロハを学ぶことに。翌年一月、窃盗犯の証言で女児の遺体が発見され、それが五年前の未解決誘拐事件の被害者、島崎陽菜であることが判明し再び捜査が始まるが、犯人は事件発生時に死亡しており、今回も何の手がかりも得られぬまま未解決に。

 それから一年半後、札幌創成署の生活安全課防犯係係長に異動した沢村は少女売春事件の捜査に当たっていたが、そのさなか、陽菜ちゃん事件の捜査資料が道警と仲の悪い月刊誌にリークされる。道警上層部は直ちに内部調査を開始、その手はやがて沢村にも及んでくる。

 陽菜ちゃん事件の捜査が行き詰まったまま、突然起きる漏洩事件。その犯人探しから浮き彫りにされる道警の内幕、動揺する捜査現場。沢村は折り合いの悪い学者の父親との葛藤も抱えており、そこへ職場の軋轢も加わって悩みはさらに増していく。女性警察官の人生劇としても読み応えのあるものに仕上がっていよう。

 一方の陽菜ちゃん事件の方も、未解決のままでは終わらない。瀧本刑事を始め、警務部のやり手管理官・片桐や押しの強い弁護士・兵頭百合子といった脇役にも個性派をそろえ、思わぬ展開で最後まで読者の目をそらさない。この筆力で、本作が初めて書いた長篇ミステリーで新人賞初応募というのだから恐れ入る。まぎれもない、警察小説の超新星だ。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2021年12月号掲載〉

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