週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.155 ブックファースト練馬店 林 香公子さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 ブックファースト練馬店 林 香公子さん

サイボーグ009トリビュート

『サイボーグ009トリビュート』
原作/石ノ森章太郎
河出文庫

 

 石ノ森章太郎のSF漫画『サイボーグ009』のトリビュート小説集。昭和の東京五輪が開催された1964年に『週刊少年キング』で連載がスタートして以来、長年にわたり映画やアニメなど、様々な媒体で綴られてきた9人のサイボーグ戦士の物語です。今年誕生60周年を迎え、オール読み切り・完全新作のアンソロジー小説集が発売されました。

 1968年最初のアニメ化の脚本家であり、現在ミステリー作家として活躍しておられる辻真先による第1期アニメ最終回のノベライズ化を皮切りに、9名の作家が執筆。『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』で本年度の星雲賞日本長編部門を受賞した高野史緒は、レニングラードでのバレエコンクールへの潜入捜査を。作中の「白鳥バレエ団の森上陽子先生と清水哲次郎先生」という表現には時代背景へのリスペクトを感じました。本年度の日本SF大賞受賞作『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』でAI義足のダンサーを描いた長谷敏司は、60年後のサイボーグ戦士の装備のアップデート状況に触れており、今もサイボーグたちは人間と機械の狭間にいるのだと思わされます。

 不条理状態にある人物描写では定評のある酉島伝法は『009』前夜のサイボーグ訓練施設で翻弄される様子を。今年の5月に初の小説集を出版した池澤春菜は、戦う少女のシスターフッド小説を。また、アニメ「ゴジラS・P」の考証・脚本の仕事も記憶に新しい円城塔は、宇宙に海底、ドクロといった『009シリーズ』のエッセンスを詰め込みながら、暴走する人工知能との戦いについて描きます。他には斜線堂有紀斧田小夜藤井太洋も参加。執筆者のカラー ×『サイボーグ009』を堪能できる500ページを超える大ボリュームの1冊。

 漫画が未完だけに、どの小説もどこかの巻のエピソードの一つ、もしくは現在も連載が続いていたら……と思わせられます。作品やキャラクターに馴染みのない方にとっては、環境・人工身体・戦争の在り様など、アップデートし続ける現在を書き続けているSF作家による最新のアンソロジーとしてお楽しみ頂けます。キャラクターが気になりましたら、秋田書店刊コミックスを是非お手に取ってみてください。60年にわたり人々を魅了しつづけるマスターピースに、この機会に触れてくださいませ。

 

あわせて読みたい本

虎よ、虎よ!

虎よ、虎よ!
アルフレッド・ベスター 訳/中田耕治
ハヤカワ文庫SF

 アメリカで1956年に刊行、日本での翻訳版刊行は1958年。サイボーグ009発表と同じ1964年にハヤカワSFシリーズで再刊された『虎よ、虎よ!』。惑星間戦争下の難破船からの復讐譚。精神感応移動能力(テレポーテーション)や加速装置など魅力的な設定が満載のSF古典の名作。サイボーグ009のコミックスとあわせてぜひ読んでいただきたい1冊です。

 

おすすめの小学館文庫

日本沈没 上

『日本沈没』上・下
小松左京
小学館文庫

 小学館文庫のSF作品と言えば小松左京の『日本沈没』。サイボーグ009発表と同じ1964年に執筆が開始され9年後の1973年に完成・刊行された作品です。日本が沈没し、日本人が流浪の民となるこの小説。現在に至るまで、様々な作品の素となっています。是非この機会にご一読を。

 

林 香公子(はやし・かくこ)
どちらかといえば読書家。


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