今月のイチオシ本【エンタメ小説】 吉田伸子

『JKハルは異世界で娼婦になった』
平鳥コウ
早川書房

  この仕事を始めてから、まさかこんな日が来るとは思わなかった。アトランダムにページを開くだけで、マ◯コだの、チ◯ポだのという単語にヒットする小説を紹介する日が来ようとは──。

本書の内容は、タイトルが全てを表している。ヒロインは小山ハル。現代の東京で暴走トラックに撥ねられて、何故か「異世界」へと「吹っ飛ばされた」。東京ではスクールカーストを軽やかにクリアし(もちろん、細心の注意をはらって、だが)、イケてる女子高生だったハルだったが、転移した異世界は「スマホどころかネットも電話も、そもそも電気もねぇ車も走ってねぇの世界」。

  イメージ的には、中世ヨーロッパといったところか。しかも、街の外ではモンスターが跋扈していて、子どもがさらわれたりする。おまけに徹底した「男尊&女卑」。そんな異世界で生き抜くために、ハルが選択したのが、酒場と娼館がセットになった「夜想の青猫亭」での「娼婦」だった。

  ハルと同時に異世界へ転移して来た、高校の同級生「千葉」(ハルにとっては「絡んだことは一回もなかった」陰キャのキモオタク)、ハルに好意を寄せる客(体格が良すぎるため、ハルからは「相撲部」と呼ばれている)、ハルが想いを寄せる渋さ爆発の謎おやじ、「青猫亭」の娼婦たち、と個性的なキャラが脇を固め、さくさく読める。

  だが、物語の魅力は、何と言ってもヒロイン・ハルのキャラにある。とにかくタフ! そして、本書の圧巻は、ハルがどうしてタフでいられるのか、その理由が明かされるきっかけとなる、ある事件が起こる終盤あたりから。もうね、読んでいて胸がすく、すく。さらに、最終盤、それまでのエロユーモア路線を覆すような、フェミ展開が待ち受けている、という、なんというか、本書自体が「ジェットコースター型(エロ)エンターテインメント」なのだ。

  エロシーン炸裂なのに、ねっとり系どころか、むしろさばさば。何より読み終えた後の痛快さ! 騙されたと思って、一読を!

(文/吉田伸子)
〈「STORY BOX」2018年2月号掲載〉
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