採れたて本!【デビュー#13】
世間のクイズブームを反映してか、このところ、クイズを題材にした小説が目につく。高山羽根子の芥川賞受賞作『首里の馬』では主人公がクイズを出題する仕事に就くし、逸木裕『世界の終わりのためのミステリ』では元クイズプレーヤーのアンドロイドが探偵役をつとめる。小川哲のベストセラー『君のクイズ』は、題名どおりの競技クイズ小説だ。
河出書房新社の季刊誌〈文藝〉が主催する文藝賞(第60回)の優秀作に選ばれた佐佐木陸『解答者は走ってください』も、タイトルから想像がつくように、競技クイズが重要な役割を果たす。
物語は、過去の記憶がほとんどない「ぼく」こと怜王鳴門が、ある日、パパ上のもとに届いたメールの添付ファイルの文書を盗み読むところから始まる。いわく、
「これは私の息子である、きみの物語だ。きみの過去を書いた物語であり、事実をありのまま書いたものだ。噓はひとつも書かれていない。どれだけ荒唐無稽に思えても、私ときみが信じることで、すべては現実になる。(後略)」
文書によれば、生後間もない頃から常人離れした体力と知力を発揮した怜王鳴門は、11歳にして賞金20万円のクイズ大会で大人たちを破り優勝。チームを率いて出場した全国高校生クイズでは、全国放送される決勝大会で優勝の立役者となり、その美貌と頭脳でお茶の間をとりこにした。その後は、父親の「私」、幼馴染みのサッちゃんとチームを結成してクイズ界を席巻。バラエティ番組でもひっぱりだこになり、さらにはミュージシャンとしてスターダムを駆け上がる。そんなとき、三人で訪れた沖縄の水族館で事件が……。
そこから先、怜王鳴門の人生はさらにとんでもないことになっていくのだが、果たしてこれはいったいどこからどこまでが現実なのか?
舞城王太郎を思わせるハイテンションな語りがどんどんエスカレートしてありえない世界へと読者を導き、最後にエモい余韻を残す。
メタフィクショナルな構成自体は珍しくないが、そこにクイズを重ねたところがおもしろい。『首里の馬』や『君のクイズ』では、クイズに人生が重ねられるのに対し、ここではクイズの正解/不正解が世界の分岐と重なる。
○×クイズの解答者は、自分が正解だと信じるほう(○か×かが描かれたパネル)に向かって走り、もし正解ならパネルを突き抜けて向こう側の世界に出られる。バラエティ番組などでもおなじみのこの仕掛けが、本書では小説の階層を隔てる壁(床?)のメタファーとして使われている。現実と虚構の壁ははたして突破されるのか? 結末をぜひたしかめてほしい。
『解答者は走ってください』
佐佐木 陸
河出書房新社
評者=大森 望