◉話題作、読んで観る?◉ 第59回「ボーンズ アンド オール」
2月17日より全国ロードショー中
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ティモシー・シャラメ主演『君の名前で僕を呼んで』が話題となったルカ・グァダニーノ監督の新作映画。全米図書館協会が発表するアレックス賞に選ばれたカミーユ・デアンジェリスのYA小説を原作に、生きづらさを抱えた若者たちのロードムービーとなっている。
主人公は女子高生のマレン(テイラー・ラッセル)。子どもの頃から転校を繰り返し、父親の監視も厳しく、友達を作ることができずにいた。ある夜、父親の目を盗んでクラスメイトのお泊まり会に参加したことから、事件が起きる。マレンに優しく接するクラスメイトの指を、マレンは思わず食いちぎってしまったのだ。
この事件がきっかけで、マレンは幼少期のベビーシッターやサマーキャンプで仲良くなった友達を自分が捕食していたという驚愕の事実を知る。父親はマレンの過去を記録した録音テープと少しのお金を残し、姿を消してしまう。マレンは自分の居場所を求め、米国中西部をさまようことになる。
生き別れていた母親を探すマレンは、旅の途中で自分と同じ匂いのする若者リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。彼もマレンと同じ人喰いだった。自分にはこの世界で生きていく価値があるのか。そんな悩みを共有する2人は惹かれ合い、また抑えがたい衝動に苦しみながら旅を続ける。
カニバリズム(人肉食)という衝撃的な題材を扱っているが、ルカ監督は露悪的なホラー映画ではなく、社会から迫害されるマイノリティーたちの切実な青春ドラマとして映画化している。重い運命を背負いながら、主人公たちが懸命に生き抜こうとする姿が印象的だ。
原作ではマレンが捕食する相手は、好きになった人だけに限定されている。好きになった人と身も心も一体化したい──。そんな願望のメタファーとして、カニバリズムが用いられている。残酷描写が控えめな原作から入ってみるのもいいかもしれない。
ティモシーは『君の名前で僕を呼んで』以降、俳優としての成長が著しい。映画のラストシーンは神々しさすら漂う。R18指定のハードな内容ながら、恐怖以上に生きる希望を感じることができるはずだ。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2023年3月号掲載〉