◉話題作、読んで観る?◉ 第57回「夜、鳥たちが啼く」
12月9日(金)より全国順次公開中
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作家・佐藤泰志は41歳の若さで亡くなったが、彼が残した小説は『そこのみにて光輝く』など5本が映画化され、再評価が進んでいる。これまでは佐藤の故郷・函館でのロケ作品が続いたが、城定秀夫監督が映画化した『夜、鳥たちが啼く』は、東京近郊の地方都市を舞台にした大人の男女の物語となった。
慎一(山田裕貴)は若くして作家デビューしたものの、その後は思うような小説が書けずにいた。同棲していた恋人ともケンカ別れしてしまう。そんな慎一がひとりで暮らす借家に、以前勤めていた職場の先輩の元妻・裕子(松本まりか)が幼い息子・アキラ(森優理斗)を連れて現れる。離婚したので、新しい家が見つかるまで身を寄せたいという。
庭にあるプレハブ小屋で慎一が寝起きする、奇妙な同居生活が始まる。慎一はコピー機のメンテナンスをしながら、夜中に小説を書いた。母屋で暮らす裕子はアキラを寝かしつけた後、夜な夜な遊びに出掛ける。お互いに距離を置いての同居だったが、アキラを伴って海水浴に出掛けるなど、3人の関係性は少しずつ変わっていく。
脚本を手掛けたのは、『そこのみにて光輝く』が高く評価された高田亮。城定監督とは助監督として同じ現場で汗を流した仲。城定監督の演出が存分に生きるよう脚色している。
慎一がアキラや裕子と一緒になって「だるまさんが転んだ」に夢中になる場面が印象に残る。原作にはない、映画だけのシーンだ。慎一も、裕子も、それぞれすぐには解決できない悩みを抱えているが、アキラたちと遊ぶことで童心に返ることができる。心の中の重たい荷物を、一瞬だけ下ろすことになる。
城定監督は名もなき市井の人たちの哀歓を描くのがうまい。低予算のビデオ映画やピンク映画を長年撮り続けてきたこともあり、不遇な状況に置かれた人々への眼差しに温かみがある。
生と死は裏表一体の関係であり、また幸せと不幸せも同様の関係にある。不運続きだった日々に、慎一と裕子は別れを告げる決心をする。佐藤が自死を遂げた前年に発表された短編小説だが、希望を感じさせる明るい映画として生まれ変わった。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2023年1月号掲載〉