◉話題作、読んで観る?◉ 特別編

 新作劇場映画を紹介するこのコラム。
 今回は、特別編。自宅で原作も映像も楽しめる作品を5本紹介します!


『沈黙 サイレンス』

沈黙 サイレンス

 カトリック教会の一部では禁書扱いされていた遠藤周作の歴史小説『沈黙』を、カトリックの司祭をかつて志していたマーティン・スコセッシ監督が四半世紀にわたって企画を温め続け、執念の末に映画化した。ロケ地は台湾だが、隠れキリシタンたちに対する拷問シーンなど江戸時代の長崎を舞台にした原作の内容を忠実に再現している。

 17世紀前半、イエズス会の若き宣教師・ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)は、キリスト教を禁止した江戸幕府体制下の日本へと密入国する。信者たちを救済するために命がけで布教活動を行なうロドリゴだが、長崎奉行の井上(イッセー尾形)によって信者たちは厳しく弾圧される。どれだけロドリゴが祈りを捧げても、神は沈黙したままだった。日本人と西洋人との根本的な思考性の違い、宗教とは何かという問題を考えさせる内容となっている。

 スコセッシ監督が映画化したことによって、カトリック教会は江戸時代に棄教せざるをえなかった実在の司祭たちの名誉回復を認めた。歴史を動かした小説と映画として、記憶したい。
 

『ショーシャンクの空に』

『ショーシャンクの空に』

『シャイニング』『IT/イット』など、スティーヴン・キングの小説の多くは映像化されているが、なかでも名作としての評価が高いのが、フランク・ダラボン監督の『ショーシャンクの空に』だ。非ホラー系の中編小説『刑務所のリタ・ヘイワース』を、ダラボン監督は「自由」を求める男たちのヒューマンドラマへとブローアップしてみせた。

 主人公は妻とその愛人殺しの冤罪で、無期懲役を言い渡された銀行家のアンディ(ティム・ロビンス)。節税を得意とするアンディが看守と取り引きすることで、囚人仲間のレッド(モーガン・フリーマン)たちは屋上での作業を終えた後、よく冷えたビールを呑む恩恵にありつく。原作ではさらりと描かれている場面だが、映画では塀の中で暮らすレッドたちが忘れていた自由を満喫する印象的なシーンとなっている。

 脱獄サスペンスとしての要素が強かった原作に対し、映画では小説の読後感とは少し異なるエンディングを用意した。いい素材が、腕のいいシェフによって見事なコース料理に仕上がった。そんな味わいが楽しめる。
 

『時をかける少女』

時をかける少女

 2020年4月10日に亡くなった大林宣彦監督の代表作。タイムパラレルを題材にした筒井康隆原作の先駆的SF小説を、大林監督は故郷・尾道を舞台に日本情緒溢れる青春ラブストーリーに潤色している。

〝映像の魔術師〟と呼ばれた大林監督だけに、モノクロ映像やコマ送り、コラージュなどのトリッキーな映像を交え、原田知世演じるヒロイン・芳山和子の心の揺れ動きを繊細に描いてみせた。思春期の少女が初めて恋に陥る不可思議さを、タイムリープという超能力と掛け合わせたところに妙味を感じさせる。SF小説を原作に持ちながら、大林版『時をかける少女』には純文学的な香りが漂う。

 大林監督のもうひとつの代表作である『転校生』が新海誠監督の大ヒットアニメ『君の名は。』に大きな影響を与えたように、大林版『時をかける少女』も映画界のみならず、幅広いジャンルのクリエイターたちに今後も刺激を与え続けるに違いない。
 

『映像研には手を出すな!』

映像研には手を出すな!

 大童澄瞳が「月刊!スピリッツ」で連載中の同名コミックを、Netflix配信アニメ『DEVILMAN crybaby』などで知られる湯浅政明監督がTVアニメ化。2020年1月~3月にNHK総合で放映され、レンタル専用DVDがリリース、また動画配信サービス「FOD」でも視聴することができる。

 主人公は、「アニメは設定が命」を信条とする女子高生・浅草みどり、優れたマネージメント能力を持つ金森さやか、カリスマ読者モデルながらアニメーターを志望する水崎ツバメの3人。映像研を立ち上げた彼女たちは、予算も経験もない中、自主アニメづくりに熱中していく。人並外れた空想力を持つ浅草の妄想シーンは淡い水彩画タッチで描かれ、水崎と金森のイマジネーションがそこにシンクロすることで、より世界が広がっていく展開に胸がおどる。

 個性派3人がそれぞれの能力を発揮した初めての自主アニメは、ストーリー性を度外視した作品として完成する。そこに至るまでの疾走感、若気の至り感がなんとも心地よい。湯浅監督はNetflixオリジナルアニメ『日本沈没2020』の配信スタートを7月に控えており、しばらくは先になりそうな『映像研』第2シーズンにも期待したい。
 

『美しい星

美しい星

 没後50年になる三島由紀夫が唯一残したSF小説を、学生時代から愛読していたという吉田大八監督が映画化。リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、佐々木蔵之介ら人気キャストを起用し、不思議な味わいのするエンターテインメント作品に仕立てている。

 原作では無職だった主人公の大杉重一郎を、映画ではお天気キャスターに変え、テレビを通して環境汚染に毒された地球の危機を訴える憂国の士ならぬドン・キホーテとして描いている。重一郎を演じるのはリリー・フランキー。真剣に演じていても、どこかおかしみが滲み出るところが、彼ならではの持ち味だろう。

 吉田監督は、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』など文学作品の映像化で高い評価を得ている。キューバ危機(1962年)の時代に書かれた三島由紀夫の異色作を、吉田監督は8割がたコメディタッチで描きながら、ラストでいっきに宇宙レベルの壮大な物語へと引き上げていく。鮮やかな演出だ。出版業界を舞台にした新作『騙し絵の牙』も大胆に脚色してみせ、吉田監督はますます注目を集めるに違いない。

(文/長野辰次)

 

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