『新 謎解きはディナーのあとで』刊行記念対談☆東川篤哉 × 堀江由衣

『新 謎解きはディナーのあとで』刊行記念対談☆東川篤哉 × 堀江由衣

ミステリ作家の視点、声優の発想

 ユーモアミステリの旗手・東川篤哉が、テレビドラマ化&実写映画化された人気シリーズを八年四ヶ月ぶりに再始動させた。おなじみの執事探偵&令嬢刑事コンビの物語にど天然の新米刑事が新キャラとして加入した最新刊『新 謎解きはディナーのあとで』をいち早く読んだのは、声優の堀江由衣だ。堀江のライブ後の楽屋挨拶で顔を合わせてはいるものの二人が膝を突き合わせて話をするのは、初めてだった。


東川
もう一〇年以上前だと思うんですが、堀江さんのラジオ(※文化放送「堀江由衣の天使のたまご」)で『謎解きはディナーのあとで』の話が一瞬出たんです。「名言王に私はなる」のコーナーでした。

堀江
ありましたね! リスナーさんから送られてきた名言を言い換えて、私が勝手に新しい名言を作っちゃおうというコーナーで、『謎解きはディナーのあとで』の「お嬢様の目は節穴でございますか」という台詞を取り上げました。

東川
ハガキを読み上げたか何かの時、堀江さんが「『謎解きはディナーのあとで』、私も読みました」みたいなことをおっしゃったんですよ。昔から好きで聞いていた番組に、自分の本の名前が突然出てきたから本当に衝撃でした。そんな話を編集者にしたら、堀江さんに本の推薦文をもらいに行ってくれたんです(※単行本版『ライオンの棲む街』)。そのお礼も兼ねて、コンサートの後で楽屋へ挨拶に伺ったのが初対面でした。

堀江
私も衝撃でした。まさか『謎解きはディナーのあとで』を書かれた先生が、ラジオを聞いてくださっているなんて思いもよらなくて。だって、大先生じゃないですか。日本の宝じゃないですか。

東川
いやいやいや(笑)。

堀江
しかも、以前から黒ネコ同盟(※堀江のファンクラブ)に入ってくださっていると伺って、スタッフ全員ザワつく、みたいな事態に陥りました(笑)。

東川
僕が堀江さんのことを知ったのは、ラジオなんです。何かの番組にゲストで出てらっしゃった回のお話が上手で楽しくて、堀江さんのラジオを聞くようになりました。

堀江
嬉しいです。ラジオは作品とはちょっと違って、自分の素に近いものが出ている媒体なので……。

東川
よく小説でカタカナの「ウフフ」という笑い声の表記を見かけますけど、実際そんな笑い方をする人っていないじゃないですか。でも堀江さんは、「ウフフ」と書くしかないような笑い方をされる。こんなふうな笑い方をする人、ホントにいるんだって思いました。

堀江
私、そんな笑い方しますか!?(笑) さすが先生、他の方とは視点が違います。

シリーズ再始動第一作は麗子の「後輩」が初登場
風祭警部の推理力が向上!

堀江
『謎解きはディナーのあとで』は、本屋大賞を取られて世の中ですごく話題になっていた頃に、私も読ませていただきました。謎の面白さとキャラクターたちの面白さの掛け合わせで、楽しいし読みやすいし、最初から最後まで大興奮で。先生の作品って、よくお金持ちが出てきますよね?

東川
言われてみれば、確かに(笑)。現実離れしたキャラクターのほうが面白いと思っているんですよね。庶民的すぎると、なかなか突飛なストーリーにはなりにくい。この作品に関して言うと、キャラクターを先に考えたんですよ。「きらら」という女性向けの雑誌に連載することになっていたので、執事はウケるんじゃないかな、と。執事探偵とお嬢様だけだと事件に関わりづらいから、「お嬢様だけど刑事」という設定も盛り込むことにしたんです。

堀江
執事の影山さんは、普段はお嬢様の麗子さんにうやうやしく仕えているのに、いざ「事件の謎を解くぞ!」という場面になると突然、上から目線になる。お嬢様と執事の立場が逆転していく瞬間は、女子が読んでいて一番萌えるポイントですよね。

東川
そうですか。萌えポイントですか。

堀江
影山さんって、女子にすごく刺さるキャラクターじゃないですか。もしかしたら作者の方は女性かな、と最初はちょっと思っていました。もしくは、すごく乙女心をお持ちの方。

東川
ええっ!?

堀江
ウフフ。今回の『新 謎解きはディナーのあとで』も本当に楽しくて、一気読みさせていただきました。シリーズものの良さだと思うんですが、キャラクターたちのいつもの掛け合いを見て「昔の仲間たちにまた会えた!」みたいな、どこかホッとした気持ちになったんです。

東川
長く続けているうちに「似たようなことを書いてるな」と自分で思うようになってきて、このシリーズからはちょっと離れていたんです。いつかはまた書かないといけないなとは思っていたんですが……特に何か新しいアイデアを思いついたわけでもなく、なんとなくまた始めてしまいました。

堀江
新しい要素もいっぱい入ってきているじゃないですか。例えば、新しく出てきた新米刑事の愛里ちゃん、かわいかったです。

東川
実は一話目の時点では、愛里をここまでたくさん出すつもりはなかったんです。一話目の原稿を読んだ中村佑介さんが、愛里をがっつり真ん中に据えたイラストを描いてくださった。これで二話目以降、愛里を出さなかったらおかしいでしょうということになり、編集者からも「たくさん出してくださいよ」と言われ、全編出ずっぱりになったんです。

堀江
麗子さんに後輩ができたことで、上司の風祭警部との関係もちょっと変わってきていますよね。愛里は風祭警部のことをナチュラルにバカにしちゃったりするから、麗子がたしなめている(笑)。そうだ、今までは風祭さんの推理ってむちゃくちゃでしたが、今回は結構筋が通っていますよね?

東川
ああ、そこは今回、変わったところですね。本庁に栄転してまた国立署に戻ってきたという設定なので、少しくらい成長したところを見せたかった。風祭警部の笑い以外の見せ場として、間違ってはいるけれど全部が間違っているわけではない推理を披露してもらうようにしたんです。その後で影山が正しい推理を語る、という役割分担になっていますね。

堀江
風祭警部の推理が、読者にとってのヒントになっているなと思いました。そのヒントから自分なりに推理を組み立てていくんだけれども、影山さんが出てきて結局全部どんがらがっしゃーんとなる。「ここまでは自分の推理は合っているぞ!」と自信を持っていたところすらも引っくり返される瞬間が、一番悔しいけれど、一番気持ちいいんです。

東川
その感想は一番ありがたい。頑張って書いて良かったです。

ミステリのネタは日常生活の中から

堀江
どのお話も騙されてしまったんですが、一話目の「風祭警部の帰還」、三話目の「墜落死体はどこから」、四話目の「五つの目覚まし時計」のトリックは特に好きでした。ミステリのトリックに当たる部分は、どうやっていつも考えてらっしゃるんですか?

東川
ネタが書き溜めてあるノートを見返して、今回は何がいいかなと考えるんです。例えば四話目は、もう何年も前に目覚まし時計をかけっぱなしにしたまま出かけてしまった時があって、家に戻ったらギャンギャン鳴っていた。その時に感じた小さな気付きが、ミステリのネタになったかたちですね。

堀江
私も目覚ましを止め忘れて、同じ状況になったことは何度もあるんです。でも、あの発想は出てこないです。すごすぎます。

東川
日常生活で、そういうことばっかり考えているんですよ。ミステリに使えそうなネタはないかなぁとずっと探している。堀江さんのラジオを聞いていて思いついたネタもあるんですよ。

堀江
シェアハウスしている女の子三人組の話(『かがやき荘アラサー探偵局』)じゃないですか? 本当はずっと年上なんだけど自称一九歳で、女子高生の服を着ている女の子は、私なんじゃないかなと思って読ませていただいたんですが(笑)。

東川
いや、違います、違います! 「消えた制服女子の謎」という短編(『君に読ませたいミステリがあるんだ』収録)は、堀江さんのコンサートでの「早替え」のエピソードが元になっているんです。詳しい話をすると……。

堀江
(ネタを聞いて拍手)やっぱり発想がすごいです。今日いろいろお話しさせていただいたことも、今後トリックになるかもしれないってことですよね! もしかしたら目の前にある、アクリル板で何かできないかと考えてらっしゃるのかも?

東川
堀江さん、発想が面白いです!(笑)
 


新 謎解きはディナーのあとで

『新 謎解きはディナーのあとで』
著/東川篤哉
小学館

2011年に本屋大賞第1位となり、435万部を突破した大人気ミステリの新章。執事探偵と令嬢刑事のコンビに天然キャラの新米刑事・若宮愛里が加わり、風祭警部も警視庁から国立署に舞い戻り、新メンバーで難事件に挑む全5編。


東川篤哉 (ひがしがわ・とくや
1968年広島県生まれ。2002年カッパノベルスの新人発掘プロジェクトで長編デビュー。11年、本シリーズ1作目『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞第1位。他の著書に『館島』、『密室の鍵貸します』『谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題』など。

堀江由衣(ほりえ・ゆい
9月20日生まれ。東京都出身。1997年のデビューから一貫してトップクラスの人気を誇る声優アーティスト。代表作は「DOG DAYS」ミルヒオーレ・F・ビスコッティ役、「〈物語〉シリーズ」羽川翼役、「魔法つかいプリキュア!」キュアマジカル/十六夜リコ役など。

(構成/吉田大助)
〈「STORY BOX」2021年5月号掲載〉

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