東川篤哉『新 謎解きはディナーのあとで』

東川篤哉『新 謎解きはディナーのあとで』

コロナ禍はミステリではありません


 このたび『新 謎解きはディナーのあとで』が刊行の運びとなりました。

 執筆期間は一昨年の終盤から今年の正月まで。したがって五本収録された短編のうち四本までが、昨年春以降のコロナ禍において執筆されたものとなります。といっても私の場合、幸いにしてコロナの影響は皆無。ほぼ普段どおり執筆は遅れがちでした (あれ?)。

 ただし、ひとつだけ意外なところで影響が。それは国立駅の駅舎にまつわる一件です。

 ご存じの方はご存じでしょうが、『謎解き~』は東京都国立市を舞台にした連作短編集。

 その街の玄関口であるJR国立駅には、かつて赤い三角屋根の駅舎がありました。この駅舎は街のシンボルだったのですが、駅の改築にともなって、惜しまれつつ撤去されました。ところが、どういう訳だか(ていうか、おそらく『国立の町にシンボルらしいシンボルが他にない』という現実に偉い人が気付いたのでしょうね)、その三角屋根の駅舎が、このたび立派に復元されたのです。このニュースを耳にした私は「おお、これはタイムリーな話題!」と喜び勇んで、その件を『謎解き~』の連載時にさらりと書いたのでした。

 ところが、これは私のうっかりミス。絶対に書くべきではなかった。雑誌掲載の直後に、私はそう気づきました。なぜなら駅舎の復元は二〇二〇年春のトピックス。この話題について作中で触れるということは、すなわち新シリーズはコロナ禍の真っ只中を舞台にしたミステリであると示すに等しい。だとするなら、令嬢刑事の宝生麗子は当然マスク姿。上司の風祭警部はソーシャルディスタンスを保ちながら部下にセクハラを繰り返しているということになるでしょう。もちろん執事探偵の影山が運転するリムジンには、運転席と後部座席を仕切るビニールシートが設置されているはずです。――世界観、台無しですね!

 確かに、このご時世において作中人物にマスクを装着させるか否かは、多くの作者にとって悩みどころ。ですが、『謎解き~』に関しては考えるまでもなく否です。そもそも、このシリーズはリアルな世相を反映した物語ではない。読者には束の間パンデミックのことなど忘れて、ミステリを楽しんでもらうことが、作者としての願いなのですから。

 というわけで、この手の問題箇所をバッサリ削除した形で、『新 謎解きはディナーのあとで』が完成いたしました。中村祐介画伯の素敵すぎるイラストが目印。皆さま、書店でお見かけの際には、ぜひともお手にとっていただきたく、お願い申し上げます。

 


東川篤哉(ひがしがわ・とくや)
1968 年広島県生まれ。岡山大学法学部卒。2002年、カッパノベルスの新人発掘プロジェクトで、長編デビュー。11年、本シリーズ1作目『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞第1位。他に、『館島』『密室の鍵貸します』『完全犯罪に猫は何匹必要か?』『交換殺人には向かない夜』『放課後はミステリーとともに』『探偵さえいなければ』『君に読ませたいミステリがあるんだ』『谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題』など著書多数 。

 

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新 謎解きはディナーのあとで

『新 謎解きはディナーのあとで』
著/東川篤哉

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