現代女性のお悩みならお任せ ジェーン・スーおすすめ4選

コラムニストのジェーン・スーは、雑誌やラジオにおいて、現代女性の様々な悩みに対し、快刀乱麻に斬ることで、今、もっとも活躍中の女性のひとりです。そんな彼女のおすすめエッセイ4選を紹介します。

『女のお悩み動物園』――動物園の動物のように、女の生態も種々雑多。あなたはどの動物に当てはまりますか?


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 女性のタイプを16種類の動物に分類し、それぞれの生態における長所や短所、見習うべき性質を解説します。
たとえば、タカ。

「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがあります。私には、真のタカである友達がひとりおります。彼女は仕事でもプライベートでも、ガツガツせず、鼻息が荒いところがひとつもない。貪欲な様子とは無縁なのに、仕事もプライベートも思いのまま。彼女の「もの欲しそうでない」様子こそが、実は非常に重要です。謙虚が過ぎる人を見くびる人がいるように、もの欲しそうな人を警戒する人もいる。下手をしたら、熱意を見せる人にちょっと意地悪をしてやろうという輩までいる。ここで「やっぱり大人しくしておいたほうがいいんじゃない?」と早合点するなかれ。衆人の前で爪を出さなければ良いだけ。欲しい獲物が目の前に来るまでは、涼しい顔をしていれば良いだけ。ほら、学生時代にいたでしょう? 仲間内で、いつの間にか彼氏ができる女子。勉強してる素振りは見せないのに、ちゃんとテストで良い点を取る女子。そういう子たちのことを、当時の私はズルいとすら思っていたけれど、結果、そんなことはありませんでした。学生時代ならまだしも、社会人になったら、欲望に対して個人主義で動ける人のほうが、成果をあげます。

他にも、頑張り屋だけれど、その一生懸命さが時に相手を追い詰めるイヌ、本人にその自覚はないのに、気づけば周りを振り回している、人たらしなネコ、可愛らしいが、目立たず控えめにしている分、チャンスに対して尻込みしがちなウサギなど……。さらに、20代から40代の女性から寄せられた様々な悩みに対し、相談者がどの動物か見当をつけたうえで、アドバイスをするという点が、本書の斬新な点。あなたに該当する動物の生存戦略は、どのようなものでしょうか。

『女に生まれてモヤってる!』――女らしく振る舞うことに違和感のあるあなたへ。脳科学者・中野信子と探る、新しい女性の生き方とは


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 幼少期から女の子らしさとは無縁、成長してからも、社会が求める女らしさ(男性を立てて控えめにする等)に対して、モヤモヤを感じ続けてきたというジェーン・スーが、同じく、女らしくあることへの居心地の悪さを感じてきた中野信子と本音で語る対談集です。
 たとえば、妊娠・出産について。独身で子どもを持たないジェーン・スー(本書刊行時46歳)は、

私は、女らしくないことや、子どもを産んでいないことに対しての税金未納感みたいなものがいまだにあるんですよ。それは一生消えないと思う。35歳ぐらいのときに1回頭のてっぺんからつま先まで女らしくした時期があったんですよ。ふわふわヒラヒラのワンピースとか着たりして、そういうのが好きな男らしい人とデートしたり。そのときハッキリわかったんですよ。「この女のコスプレ楽しくない。自分には無理だ」って。当時の私は、子どもを産める機能を持っているはずなのにそれを使わない自分に対してうしろめたさがあった。結婚して夫のために生きることも、子どもを産んで子どものために生きることも選べなくて、自分は利己的だと思って苦しんでいた。

 現在、「未産うつ」という言葉があるように、子どもを持たない選択を自らしたにも関わらず、生物のメスとして、生殖しない自分はどこかおかしいのではないかと悩む女性は少なくないといいます。
 これに対して、自身も、積極的に子どもを持ちたいと思わなかったという中野が、科学的な視点から発言しています。

次世代に対する貢献という意味においてなら、「子どもを産まない」という貢献の形は既にあるんだよね。同性愛者がコミュニティ内に多いほうが人口増加率が大きい(子育てに協力してくれそうな人が周囲にいるから安心して生める)、というリサーチがあるよ。それに、人を増やさないということは、リソースを食いつぶさないことにもなる。数十年前は「人口爆発」が問題になっていたし。
今はまだおおっぴらに許されていませんが、ゲノム編集が可能になったら有性生殖によってしか多様性はもたらされない、という枷がなくなる。そもそも遺伝子が編集できる時代がいずれくるだろうというときに、自分の遺伝子を残す必要ってあるのかなあ。むしろ文字情報のほうがいいんじゃないの。文字情報のほうが遺伝子より劣化せずに後々まで残るしさ。私たち、すでにいっぱい残してますよ。

自分の遺伝子の代わりに、本当に後世に残した方がいいものを考察する両氏。
自分らしく生きることと女らしく生きることが合致しない女性にとって、エールとなる1冊であると同時に、両氏は、そうした女性たちの心強いロールモデルとなってくれるでしょう。

『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』――美人、キャリア、恋愛経験豊富、それなのにプロポーズされないのは何故?


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 彼氏はいるのに結婚できない、婚活を頑張っているのに成果が出ないというアラサーからアラフォーの女性に向けての指南書です。刊行当時40歳独身で、「未婚のプロ」を自称する著者が、自身の失敗談や周囲の未婚の友人などを分析した結果気づいた、101のプロポーズされない理由を惜しみなく開陳します。

日常会話の延長線上のような口調で、友人の結婚話を何度もしたことがある――よく知りもしない他人の結婚話は、自動的にプレッシャーになる模様。

彼の家に行くとき、頼まれてもいないものも勝手に買っていって補充する――オカンか! おもしろいもので、頼まれもしない買い物や掃除をしないでいると、逆に男の方からやってくる。

彼に野菜を食べさせようと奮闘している――余計なおせっかいです。いい奥さんアピールは、彼が結婚を意識してからでも十分間に合います。

ミネラルウォーター以外の水を飲まない――こだわりのライフスタイル、すべてにおいてハイメンテナンス(=金のかかる女)を暗喩します。「意識の高い女、めんどくせぇ」と思われて終わりです。

噂話をいちいち彼に報告する――女の噂話が苦手な男は多い。男は男で職場の噂話はするくせに、そこで我先にと最新情報を提供する女にはひるむんですなぁ。

ひとつひとつの事例があまりに具体的で、身につまされる人も多いのではないでしょうか。
ただ誤解してはならないのは、著者は何も、結婚している女性の方が偉いと言っているのではないということ。著者自身、独身の気楽さは、「麻薬的な」快楽があってやめられない、と言っています。本書は、それでも結婚したい女性が、間違った努力をしないための1冊であると同時に、男性の思考を理解するという意味においては、結婚後の女性にも有益な内容が詰まっています。

『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』――私たちは、一体いくつまで女子でいたらいいのか。女子でいられるのか。


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女子会、女子力……。学齢期を過ぎた大人の女性を「女子」と呼ぶようになったのは、著者によれば、2010年あたりからだとか。そして、その背景には、女性はいつまでも若々しくいなければならないという社会からの圧があると、著者は分析します。「貴様いつまで女子でいるつもりだ」というインパクトの強いタイトルから、一見誤解してしまいそうですが、著者は決して、いつまでも「女子」でいる人たちに、「年相応にせよ」などと言って、叱正しようとしているわけではありません。むしろその逆です。

女子女子言っている女たちも、自分がもう女子という年齢ではないことを十分自覚しております。それなのに、肉体が変化し、非処女になり、社会的立場が如何に変わろうとも、女子魂は死ななかった。自分の中にいつまでもか弱い女子がいると気付いた。

大人になったら、もっと達観した考えを持ち、潔く「オバサン」になれると思っていたのに、どうやらそうではないらしい……。可愛いものを愛でたり、それを手に入れたいと思うのが「女子」だというのなら、アラフォーになっても、自分の内にある「女子」はまったく消える気配がない。人一倍しっかり者で、女の子らしさとは無縁だった著者は、自分のなかに根強く居座り続ける少女性に、戸惑いを隠しきれない様子です。その一例が、大人女子の「ピンク」問題。ピンクは男性に媚びる色として、長年毛嫌いしてきたという著者。しかし、その感情をつぶさに観察してみれば、ピンクが似合わないことへの劣等感、ピンクが似合う女子への憧れの裏返しであったことに思い当たります。

思春期には「ピンクの似合わない女は、愛されない」と勝手に自分を追い詰めました。結果、自己防衛として、「(ピンクの服を着て)異性に可愛いと思われたいと思うこと自体が悪!」という暴論にたどり着いたのです。しかし、40代が見え始め、女としての記号的な価値が落ちて初めて、ピンクにネガティブな感情を抱かなくなりました。
子供の頃に封印したはずの「ピンクを身近に感じたい私の気持ち」も、まだ心に存在した。であれば、(歳をとって)ふてぶてしくなったいまこそ、実験的にピンクを身近に感じてみよう。そう思いました。それからはリハビリピンクとでも申しましょうか、まずは身の回りにある雑貨にピンクを取り入れてみました。うむ、悪くない。ピンクは想像以上にバリエーションがあって、試してみれば、誰にでもそこそこ似合うピンクがある。こうして、私はピンクと和解しました。ピンクはいまでも愛され願望を連想させるけれど、自分にそんな願望があることを、ニヤニヤと認められるようにもなりました。

「女子力」は、TPOさえ間違えなければ、発揮してもいい――。大人の女性のなかにも、いつまでも居る「小さな女の子」を否定せず、その存在を認め、抱きしめてあげようというのが本書のコンセプト。いつまでも「女子」と言うのは「イタい」と思う、客観性に富んだ読者にこそ、読まれるべき1冊です。

おわりに

女性の生き方を指南するエッセイや啓発書は数多くありますが、ジェーン・スーほど親身にかつ真摯に、相談者からの悩みに向き合う人はいないのではないでしょうか。人の相談に乗るときに、まずは、自分の弱さや失敗談をさらけ出したうえで、アドバイスするというフェアな姿勢が、多くの女性からの支持を集める所以でしょう。悩みを身近な人に相談できない時、彼女の本を手に取ってみるとよいかもしれません。

初出:P+D MAGAZINE(2022/03/09)

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