☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子 [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 2

☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子  [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 2
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vol.2  わたしたち。

 

角田
わたし、西さんと逆で、読んだり書いたりするときに、映像がまったく浮かばないんですよ。ぜんぶ言葉で読むし、言葉でおぼえるし、自分で書いていても、顔とか浮かんだこともないから、一生懸命書きすぎちゃうくらい書いちゃうんですよね。
 

西
うーん。
 

角田
ただ、向田邦子さんのエッセイ、あるいは小説って、すごく視覚的に記憶できる。たぶんそれは、向田邦子さんという方が、脚本から、映像の世界から入ってる方だからかなぁ、とも思うんですけれども、この『字のないはがき』の原作も、22、3歳で読んでおぼえてたっていうのは、〝絵〟でおぼえてるんですよね。

角田光代さん


西
うんうん。
 

角田
この絵本には敢えて入れなかったんだけれども、エッセイには、真ん中のお姉さんが迎えに行ったら、いちばんちいさい妹が痩せ細って、噛んでいた梅干しの種をぺっと出すところとか、布団部屋で寝かされてる姿とかも書かれていますよね。それをぜんぶ、映像でおぼえちゃってるから、削るのがすごくドキドキしました。
〝あったこと〟なのに、この目で見ていることなのに、絵本に書かないでいいのかなっていう気持がすごくありました。
 

西
向田さんの「字のない葉書」以外のエッセイも、〝絵〟になってるっておっしゃってましたよね。
 

角田
そうなんですよー。
 

西
ね? ライオンの話とか。
 

角田
ライオン、みなさんご存じですよね? 「中野のライオン」()ね。中央線乗ってたら、中野のアパートの一室で男がライオンと窓から外をながめてるっていう、……わたしもそれ見ちゃって。
 

西
見てません(笑)!
 

角田
おぼえちゃってて。で、そのね、「ぼくです」っていうひとが出てくるんですよね。そのひとも、わたし知ってるの!
 

西
あははは(笑)。それはなんなんだろ? 〝向田邦子さんになってる〟ってわけじゃないですよね?
 

角田
なってる、というのとは違うんですよね。
 

西
あまりにも、向田さんの書き方が、主語が「We」みたいになっちゃってるぐらいの強さがあるってことなのかな?
 

角田
あ、……かもしれない。
これはすごく思うことだけれども、やっぱり〝上から〟書いてないじゃないですか、目線は。読者のわたしたち、もしくは、退屈なつまらない毎日を送っているわたしたちと、おなじところにいるよ、っていうふうに書いてくれるので、〝見えてしまう〟。仰ぎ見るのでもなく、自分の目線の高さで見えちゃう、ということなのかもしれないですね。
 

西
てことは、そうだね、書く側からすると、なにが仰ぎ見るものかって、ひとによってわからないじゃない? 
 

角田
うん。
 

西
だから、限りなくアヴェレージのことを書ける方なのかなって。幅の広い、……それはやっぱりドラマもそうですもんね。ドラマのなかで夕飯の献立を「きのうのカレー」って向田さんが書いてらして、そういうことを書けるようなシナリオライターの方はいなかった、っていうのをどっかで読んで。たしかに「きのうのカレー」って、わたしたち、だいたい経験してますよね。そこを思い出して書けるって、すごい変な言い方やけど、腕まくりしてないと書けないし、腕まくりしてたら書けない。
 

角田
うんうん。
 

西
ふだん小説読んでて、たまにめっちゃご飯の描写おいしそうなことってあるじゃないですか。わたし昔それを、すごいって思ってたんですよね。こんなにおいしそうに書けるって、と思っててんけど、最近ちょっと逆になってきて、おいしそ過ぎる!って思ってきて。
 

角田
あははは(笑)。

角田さんと西さん


西
なんていったらいいの、この食材でこれ、っていうのが、そんな、……わたしたちの日常で出るかね?とか。あと、ちょっといい居酒屋のメニューとかも、意外とポテトサラダでええんちゃうかな?とか。
それはなんでかなっていうと、書いてる方が腕まくりされてるんかなぁ、とか思うんです。でも、向田さんのは、もちろんおいしそうやし、うわっと思うこともあるんやけど、ぜんぜんなんか、どこやろここ?って思わへんていうか……。
 

角田
ああ。
 

西
どこにあるん?この居酒屋教えて、って思わへんような。〝わたしたち〟がふだん行く場所といえるようなことを書いていらして、じつはわたし、それは角田さんにも、すごい思ってるんですけど……。
 

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◇自著を語る◇ 角田光代『字のないはがき』

子ども時代に見ていたテレビドラマをのぞけば、向田邦子作品に出会ったのは二十二、三歳のころだ。このときすでにご本人はこの世の住人ではなかった、ということもあって、この作家は私には最初からものすごく遠い存在だった。平明、簡素でありながら、叙情的な文章で綴られる、暮らしや記憶の断片は、私の知らない大人の女性の世界だった。