『月の立つ林で』青山美智子/著▷「2023年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

『月の立つ林で』青山美智子/著▷「2023年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

似ているようで違う、新しい一日を生きる。


 著者の青山美智子さんと具体的にお仕事の話をさせて頂いたのは2020年の初め、コロナ禍が始まった頃でした。それから3年が経ちましたが、依然としてコロナ禍は続き、これまでの「普通」は大きく変わりました。
 不安や孤独を感じることが多くなった一方で、「普通」の毎日が営めていたのは、知らない誰かの働きがあったことに気づかされた機会でもありました。
 見えないけれど確かに存在する「新月」をモチーフに、「見えない繋がり」を描いた今作は、今だからこそ心に響く物語だと感じています。

 悲しみや不安に襲われた時、本が心に寄り添ってくれたり、もう一度立ち上がる後押しになってくれたりしたことは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
 とはいえ、悲しみや苦しみが深い時は、本を読んでも、「でも現実は違うし……」「こんな素敵な人や出来事は現実ではあり得ないし……」と考えてしまうことも否定できません。小説はフィクションですから、それは当たり前のことだと思います。

 でも、『月の立つ林で』は、本を閉じた後、自分の人生に対して地続きで思いを馳せることができる小説だと感じます。自分の生活の先に存在する見知らぬ誰かを想像したり、逆に、自分の何気ない働きが、知らない誰かに通じているのだと感じることのできる物語だと思います。

 コラムのタイトルは、帯の文面を元に考えました。実際の帯では、「似ているようでまったく違う、新しい一日を懸命に生きるあなたへ。」と書いています。
 悲しい状況や苦しい事態に直面した時、「この状況がずっと続くかもしれない」と不安に襲われることは誰しもあると思います。しかし同じような日々が続くように思えても、月が満ち欠けを繰り返すように、毎日は確実に変化しています。
 まだ見ぬ明日は、今日とは異なる、新しい日であることを、この物語は教えてくれます。
 困難の中でも一歩ずつ歩みを進めるすべての人たちに、是非手にとっていただきたいです。

 物語に「私がいるよというのは、あなたがいるよと伝えること」という一文があります。「この本があるよ」という事実の先に、「この本に出合ってくれるあなたがいるよ」ということだと感じています。
 多くの方にご覧いただけたら、嬉しいです。

『月に立つ林で』コラム画像
カバー撮影の一コマ。木枠に貼ったテグスの上に、繊細な切り絵を載せて、陰影や奥行きが出るように撮影しました。カバーではエンボス加工を施していますので、是非手にとって触ってみてください。

──ポプラ社 文芸編集部 三枝美保


2023年本屋大賞ノミネート

月の立つ林で

『月の立つ林で』
著/青山美智子
ポプラ社
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