『小説王』文庫化!特別対談 早見和真 × 森 絵都「作家の覚悟」
小説家が小説家を題材にするということ
──森さんは今回、『小説王』の解説オファーを受けた際、どう感じましたか?
森 『小説王』は単行本が出た際にすぐ拝読していて、すごく読み応えがあったので、きっと解説も"書き応え"があるに違いないと思いました。やっぱり私も書き手の一人なので、読んでいていろいろと感じるところが多かった作品ですし、本に携わっている方ならばきっと誰もが受けとめるであろうこの小説の熱さを、なんとか言葉にできたら、と。
出版業界の表と裏をリアルに描いているけれど、物語の本質はそこにはなくて、「書く」とはどういうことかを深く掘り下げていく。その部分にとりわけ惹きつけられました。
早見 本当に嬉しいお言葉です。森さんも解説で触れてくださっていますが、小説家が小説家を題材にするなんて、本当はやりたくなかったんですよ。でも、こうして書ききったいまは、今度は森さんをはじめ、尊敬する諸先輩方が書いた『小説王』が読みたいという気持ちになりました。きっと、小説家の数だけ違うスタンス、考え方があると思うので。
森 そうですね。編集者の方との付き合い方にしても、本当に人それぞれですしね。
早見 森さんご自身は、作家として編集者との付き合い方をどう考えていますか。
森 編集者とひとくちに言っても、密に寄り添うタイプの人もいれば、応援団的な距離感の人もいるし、戦友みたいな人もいる。関係性は相手によって変わってきますね。最近はうんと年下の編集者も増えてきたから、『小説王』のようにがっつり結ばれている作家と編集者の関係は羨ましいですよ。
早見 僕、編集者という存在にすごく期待しているんですよ。この仕事をもう10年やっているのに、文章にも作品にもまったく自信がないので。
森 『小説王』に登場する作家の豊隆くんとは真逆ですね。
早見 僕みたいなタイプの作家を主人公にしていたら、物語は破綻していたと思います(笑)。
森 作中で、豊隆はわりと作家の業のようなものを丸出しにしていますよね。自分にないものをあえて描こうと?
早見 というよりも、きっと僕の中に眠っているであろうもの、恥ずかしくてひた隠しにしてきた部分をむき出しにした、と言ったほうが近いかもしれません。『小説王』に関しては、事前にキャラ設定のようなことは何もせず、日頃この仕事を通して感じている苛立ちなどを、そのまま作品に落とし込んでいった感じでした。