今月のイチオシ本【歴史・時代小説】

『大奥づとめ』
永井紗耶子
新潮社 本体1,600円+税

『福を届けよ』などお仕事ものの時代小説を発表している著者の新作は、大奥で働く女たちを連作形式で描いている。

 大奥といえば、将軍の寵愛を競う美女たちが、ドロドロの愛憎劇を繰り広げているとの印象が強い。だが大奥で将軍の側室になれるのは、ほんの数人。多くの女性は、大奥という組織の維持と運営に当たる事務官や専門職だった。本書は、将軍の力に頼るのではなく、自分の才覚で上を目指す女性に着目することで、大奥ものに新機軸を打ち出したといえる。

「ひのえうまの女」の主人公は、傲慢な許嫁に制裁を加え大奥へ入った御家人の娘お利久。琴を学んでいたお利久は、芸事などで正室の御台様を盛り立てる御三の間に配属される。芸が認められたら出世も可能だが、同僚には琴の名手お豊代がいた。自分の仕事に自信が持てなくなったお利久だが、祐筆のお藤に声をかけられたことで新たな一歩を踏み出す。

「いろなぐさの女」は、センスがないのに、大奥のすべての着物を差配する呉服の間で働くお松が、大奥出入りの呉服問屋の若女将の力を借り、苦手を克服しようと奮闘する物語となっている。

「つはものの女」は、大奥の要望を表に伝える重職・表使の初瀬が引退することになり、お克とお涼が後継の座をめぐり勝負をすることになる。「ちょぼくれの女」では、町人の女房ながら舞の師匠として大奥に招かれた三津江が、仕事と家庭の両立、子供ができないプレッシャーに悩みながらも、職務に邁進していく。

 厳格な身分制度があった江戸時代は、才能があり努力をしても、生まれた家の格を超える出世は難しかった。女性の人生はさらに狭く、結婚して子供を産む以外の道はなかったといえる。ただ大奥は例外で、結婚を強いられることがなく、運と能力があれば御家人の娘でも最高位の御年寄になるのも夢ではなかった。

 男社会の江戸の世にいづらさを感じ、あるいは自ら捨て、女性がキャリアアップできる大奥に飛び込んだヒロインたちが、悩みながらもそれぞれに活躍の場を見つけていく本書は、似た境遇にいる現代の働く女性へのエールなのである。

(文/末國善己)
〈「STORY BOX」2018年10月号掲載〉