初めての著書『自分を大切にする練習』を執筆し、発売日を迎え、インタビューをたくさんしていただき、べらべらしゃべり。ひと通りアウトプットを終えたらむくむくとインプット欲が湧いて、読書好きの妹に「何か面白い本はないか?」と聞いて薦めてもらったのが、赤染晶子さんのエッセイ『じゃむパンの日』でした。
この本の中で書かれているのは、身の回りで起きた日々の何てことないできごとばかり。ですが、目線が細やかで優しく、どのエピソードも読むととても温かい気持ちになれます。忙しく生きていると、通りすぎてしまいそうなかけがえのない瞬間。それらを飾らない言葉で丁寧に掬い上げているところが、めちゃくちゃ素敵なんです。肩の力が抜けたしゃれたユーモアにも、何度も笑わされました。読み終わる頃には、赤染さんの聡明でチャーミングな人柄にものすごく惹かれていました。
僕は自著の中で「自分を大切にする」セルフケアの方法について書きましたが、自分の毎日をよくよく見つめ、それを慈しみ、可笑しみ、書き綴るというそれらの行為も、自分を大切にすることと繫がっているのではないか、と気づかされました。
『じゃむパンの日』の収録作は一篇が短く、移動時間や寝る前など、構えずに気軽に読めたことも、スッと胸に入ってきた要因のひとつだと思います。
忙しい毎日を送るみなさんが少し立ち止まって、日々を見つめる大切さを感じられるきっかけになれば、と思います。
『じゃむパンの日』
赤染晶子 著(palmbooks)
2017年に早逝した芥川賞作家による、淡々とした筆致ととらえどころのないユーモアが冴える傑作エッセイ55篇。
りんたろー。
1986年生まれ。2017年に兼近大樹とお笑いコンビ「EXIT」を結成。しゃべくり漫才のツッコミを担当。アーティスト活動やアパレルのプロデュースなど多方面で活躍中。
『自分を大切にする練習 コンプレックスだらけだった僕が変われたすべてのこと』
りんたろー。 著(講談社)
容姿いじりの葛藤、美容で自信をつけたからこその変化、モテのその先への思い。コンプレックスだらけだった著者が、自身の内面と深く向き合った過程を、セルフケアのアイデアと共に綴る。
〈「STORY BOX」2023年3月号掲載〉
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