ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第116回
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いま思えばただの
「好きなことは仕事にしない方がいい」
これは聞かなくていい老の説教ランキング上位に必ず食い込んでいる言葉だ。
ちなみに第1位はもちろん「昔は良かった」である。
そう思っていた時期が私にもあったが、少女たちの地元愛を描いた名作漫画「地元最高」に出て来た「昔は良かった、金がなければ恐喝をすればよかった、今はみんなすぐ警察を呼ぶおかしな世の中になった」という台詞を見てから考えが悔い改まった。
例えかつてを知らなくても、こんな重厚なことを言われたら「恐喝ぐらいですぐ警察を呼ばれるおかしな世の中に負けないでくれ、俺も頑張る」と、時代の波に翻弄される人間に対する激励、そして自らの心にも奮起が起こるというものだ。
逆に言えば若人の貴重な時間を拝借しようというなら、このぐらい魂がこもった言葉で語らなければいけない、ということである。
「好きなことを仕事にするべきではない」も「幼少のころから培った火器に対する執着を商業化しようとしたら別の『お勤め』をすることになった」など含蓄のあるエピソードを披露できるなら良いが「好きなことを仕事にしたせいで好きじゃなくなった」みたいな話は本当に聞く価値がない。
むしろ「自分の好きはその程度だった」「好きだった分野で思い通りにいかなかったから嫌いになった」など、自分の小ささを露呈しているだけであり、そういう話を若人に聞いてほしくば時間あたり980円は払うべきだ。
安すぎる、と思うだろうが、そういう話をする老は大体金がないのでそれ以上は無理だ。ワンドリンクつきで勘弁してほしい。
私も常にポケットに980円が入っている側の人間である。
もちろんオール小銭の980円であり、1000円渡して20円取っとけはまずありえない、むしろ1円を数えている間に「小さいのはいいっすよ」と言われるのを待っている。
「昔から office が好きで今事務員をやっている」という人があまりいないように、好きを仕事にしたという人の方がレアかもしれないが、漫画家は大体漫画が好きだった人間がなる職業である。
私も子供の時から漫画を読むのも描くのも好きで漫画家を志し、運よく漫画家になれた人間だが、そこからが芳しくなく、芳しい作品への焦りや嫉妬で、漫画自体をあまり読めなくなってしまった。