長崎尚志『キャラクター』
十年、二十稿のシナリオから生まれた小説
画力は抜群だが、マンガ家として一本立ちするには何かが欠けている青年——万年アシスタントに甘んじていた彼が、たまたま猟奇殺人事件を目撃してしまう。青年はその犯人をモデルにマンガを描き大ヒットするが、一番応援してくれたファンは、当の殺人鬼だった……!?
これは今年6月公開の映画『キャラクター』の小説版である。
そう言うと、「ああ、映画のシナリオを忠実に小説にしたのね」と、誰もが思うだろう。実際、ノベライズとはそういうものだ。時には内容もうすく、主人公のキャラクターも映画に登場するあの役者さんを想像してよと言わんばかり、文章は好意的に言えば読みやすく、悪く言えばスカスカ——そういうものもないとは言わない。
だが、この小説版『キャラクター』はちょっと……いや、大幅にちがう、と胸を張って言いたい。
なぜならこの『キャラクター』は映画化まで実に十年を費やし、その間に数人の映画監督が興味を示し、その度に何回も書き換えを要求されたからだ。たとえば主人公を女刑事にしてほしいとか、前半と後半の主人公を変えてほしいとか……。
その結果、書き上げたシナリオは実に二十稿。全シナリオが、設定もストーリーもすべてちがったものになっていた。正直、自分自身、全部のスジを記憶していないくらいだ。
その中で、わたしが選んだ四つのシナリオを担当編集者のI氏に見せ、どれが一番小説に向いているか意見を聞いた。それをもとに書き上げたのが、この小説なのだ。
ほぼ映画と設定は同じだが、ストーリーは大きく異なっている。ラストのドンデン返しに至っては、まったくちがうものになった。
自分自身に課したテーマは、〝打倒・自分が原案・脚本を務めた映画〟! つまり真に本好きの読者が夢中になれる、本格的サイコサスペンスを目指したのだ。
成功したか否かは読者の判断にゆだねるが、もし興味があれば、映画と比較して読んでいただければ幸甚である。おもしろさも二倍!
長崎尚志(ながさき・たかし)
小説家、漫画原作者、漫画編集者。出版社勤務後、独立。2010年、『アルタンタハー 東方見聞録奇譚』で小説家としてデビュー。『闇の伴走者 醍醐真司の博覧推理ファイル』はWOWOWで連続ドラマ化。他に「県警猟奇犯罪アドバイザー・久井重吾」シリーズ、『風はずっと吹いている』など。
映画『キャラクター』
6月11日公開!
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『キャラクター』
著/長崎尚志