水村 舟『県警の守護神 警務部監察課訟務係』

水村 舟『県警の守護神 警務部監察課訟務係』

警察官になりたかった、なれなかった


 ある情報サイトで本書を取りあげて頂いた際、「警察マニアの新人作家」と紹介されました。よくぞ私をここまで的確に表してくれた、と感謝申し上げます。

 

 警察官になりたかった。

 だけど運動もせず、自堕落に学生時代を過ごし、警視庁に願書は出したものの、腕立て伏せすら出来なければ合格するはずもなく……。

 夢は諦めた。

 けれども、街中で警察官とすれ違えば、つい目で追ってしまう。

 クラウンのパトカーが走ってくれば、自動車警ら隊か、警察署地域課の警ら係か、あるいは交通機動隊か――所属を見分けようと乗員の制服や腕章を注視してしまう。

 皇宮警察の警備用セダンといったレアものに出合うと「尊すぎる……」と拝んでしまう。

 趣味でマラソン大会に出場すれば、タイムよりも、警備に動員され辻々に立っている警察官が気になって仕方ない。制服姿がいまいち似合っていない人がいれば「もしや動員された休日出勤の刑事さんでは?」と想像が膨らむし、警部や警部補の階級章を見かけると「おお、幹部の方まで、ご苦労様です!」と頭を下げてしまう。

 

 年齢を重ねるにつれ、警察への憧憬は止まぬどころか強くなるばかり。
そんなとき「警察小説大賞」の存在を知り――今こそ、無駄に蓄えてきた知識を活かすときだと思いました。

 小説は素人だけど、賞を争うライバルはもちろん、どんな作家の方にも「警察マニア」の度合いだけでは負けたくないし、負けていないはずだ! という一念が、応募作執筆の心の支えでした(何を争っているんだか……)。

 

「訟務係」の主な任務は、警察が訴えられた場合の対応――訴訟に勝つことです。

 これを題材にしようと思いたち、勝利のため手段を問わない男・荒城はすぐ造形できましたが、それだけでは話が動かない。

 対極的な人物――かつての私と同じように、警察官を夢見ていたものの、採用試験に落ちて別の職業についた。しかし、諦めずに再チャレンジして夢を実現し、日々の勤務に喜びを感じている新人巡査・桐嶋千隼が登場して、やっと筆が進むようになりました。

 一方で、書き進めるにつれ、寂しくもなりました。人生1度きりなんだから、やはり自分も、千隼のように、夢を貫いて警察官になりたかったなあ、と。

 とはいっても、そちらの夢に再チャレンジできる年齢は遥かに過ぎているので、これからは、警察小説を書き、作品世界の中に警察官を動かすことで、寂しさを埋めていこうと思っています。

 


水村 舟(みずむら・しゅう)
旧警察小説大賞をきっかけに執筆を開始。第2回警察小説新人賞を受賞した今作『県警の守護神 警務部監察課訟務係』でデビュー。

【好評発売中】

県警の守護神 警務部監察課訟務係

『県警の守護神 警務部監察課訟務係
著/水村 舟

萩原ゆか「よう、サボロー」第33回
著者の窓 第33回 ◈ 麻宮 好『母子月 神の音に翔ぶ』