福徳秀介『耳たぷ』

福徳秀介『耳たぷ』

恋愛、たとえばタオル形


自分に合うタオルがある。

風呂上がり、棚にタオルが何枚かあり、そこから1枚のタオルをとる。

こういうとき、なんとなくお気に入りのタオルがあったりしませんか?

気がついたら、いつも同じタオルを使っている。棚に積み上げたタオルの中で、ついついいつも一番上のタオルを使っている。一番上にあるから使っているのではない。積極的にそのタオルを選んでいる。だってそのタオルが好きだから。

一番下にあるタオルは、なんとなく吸収力が悪かったり、なんか硬かったり、気のせいか重かったり、乾くのに時間がかかる気がしたりで、好みではない。

なんかそんなタオルたちが恋愛と似ている気がした。

 

好きなタオルがある。

好きな人がいる。

うん、似ている。

 

今度は自分がタオルの立場になってみる。

アナタは私というタオルを選んでくれた。アナタは私で水気を取る。

でもある日のこと、新しいタオルがやってきた。その日以来、アナタは私を使わなくなった。しまいには、風呂上がりの足拭きマットがなかったとき、アナタは私を足拭きマット代わりにした。それをきっかけに私は薄汚れた。なんとなく黒ずんでいく。そんなときに、漂白剤に出会った。漂白剤が私を真っ白にしてくれる。私は漂白剤が好き。漂白剤とずっと一緒にいたい。いつまでも私を白くして。私をもっともっと白くして。漂白剤とずっと一緒の私。でも、漂白剤に長く漬け込まれ過ぎると私は傷むのです。良きタイミングで、すすがないとダメなのです。わかっているのに、私は漂白剤に浸かりっぱなし。傷む私。知らぬ間に私はボロボロに。そんな私をたたんでしまってくれたアナタ。アナタは私の好きな人。

〈耳たぷ〉は恋愛短篇が24話収録されています。主人公が女性のお話もたくさんあります。

以前、ある方との対談で、僕の短編には女性の主人公が多いことを指摘され、「女性の気持ちを描くときは、歌舞伎でいうところの女形をやっているわけだよね。おもしろいね」と言われた。

なんかもっとおもしろいことに挑戦してみたくなった。ということで、ふんわりとタオル形にチャレンジしてみました。

 


福徳秀介(ふくとく・しゅうすけ)
1983年生まれ、兵庫県出身。関西大学文学部卒。同じ高校の後藤淳平と2003年にお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。TV・ラジオ・舞台・YouTube 等で活躍。キングオブコント2020優勝。福徳単独の活動として、絵本『まくらのまーくん』は第14回タリーズピクチャーブックアワード大賞を受賞。そのほか著書に、絵本『なかよしっぱな』、長編小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』、短編小説集『しっぽの殻破り』がある。

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『耳たぷ』
著/福徳秀介

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