福徳秀介さん(ジャルジャル)第2回 インタビュー連載「私の本」vol.11
小説を書くうえで人物造形などはどのように進めていったのでしょうか。今回は、その詳細についてお話しいただきました。小説とコント作りの共通点や相違点など、興味深い内容が続きます。
自分をさらけ出すことが苦手な「僕」と自分
小説の主人公である大学生の「僕」は、グループを作って元気にはしゃいでいるほかの学生たちからの「あいつ一人や」という視線を遮るために、キャンパス内では日傘をさしている、という設定です。
本当は友達ができないだけなんですが、「変わりもので、一人でいるのが好きなんだろう」と周囲に思ってもらうための盾として、キャンパスでは日傘をさしているんです。
日傘は、「僕」の想いや立場をそれ1本で表せる道具だと思って登場させました。これは、物語の直しを何度も重ねるなかで追加したものなんです。
その「僕」については若干、自分に近いところがあります。昔からクールとか、なに考えてるかわからんと言われることが多かったんですよ。自分をさらけ出すことが苦手というか。
それはいまも同じで、テレビ収録の大きな楽屋で芸人がいっぱいいるところとかだと、自分も結構一人になってしまうタイプなんです。
「そんなんじゃバラエティー番組は難しいよ」と言われたこともあったし、どうしてなんだろうと悩んだこともありました。
今回、同じような立場の主人公を小説に書くことによって、自分自身でも気づかされたというか、なるほど、自分はこんなふうに思ってたんやな、と感じることが結構あったんです。いままではある意味、自分に対して自分をさらけ出してなかったところもあったんだな、って。
書くことによってまた新しい自分を発見できるんじゃないかと期待しているので、これからも、まだまだ書き続けていきたいですね。
コントのネタ作りが生きた小説の人物造形
その主人公の「僕」が好きになる女のコには「桜田花」という名前をつけました。桜のように咲き誇って欲しい、たとえ散ったとしても、また1年に1度はきれいに再び咲いて欲しいという思いを込めて。始めは違う名前だったんですけれど、これも途中で変えたもののひとつです。
その女のコは、洗濯機のネットに溜まるゴミを取るのが趣味という設定です。変わってるコという感じがよく出せるエピソードになるかなと思って、決めました。
人物造形をするうえでは、コントの経験がやっぱり生きていると思います。キャラクターも設定も、たとえ少しでも辻褄が合わなかったりズレていると、お客さんというのは笑ってくれないものなんです。どこの辻褄が合っていないかはわからなくても、そういう意味でお客さんは敏感なところがあって。きちんと人物や状況を描くというのは、コントをやるなかで自然と意識するようになっていったと思います。
相方の後藤(淳平)とは高校から一緒で、大学生のときは365日のうち360日はふたりでネタ作りをしていました。
僕らは、ネタ作りのときに話し合わないんです。じゃあ、どうやって作るんだとよく言われるんですけれど、ほんと説明できなくて。自然現象とでも言うんですかね。
僕らは別に仲いいという感じでもないし、家が近いんですけど、偶然家の近所で会っても挨拶せえへんし。でも心と心が完全に合致してるから、それで構わないんです。ソウルメイトとでも言うんですかね。前世でなにかあったとしか思えないようなわかり合い方で、もう異常な関係です。
心の天気は晴れか、雨がいい
小説のタイトルにもなった「今日の空が一番好き」という言葉については、ポンと頭のなかに浮かんだものです。
あまりにもワードがすべて安易というか、小学生でも使えそうな感じだったので、これはきっと誰かがすでに言うとるなと思ってネット検索しました。でも誰も書いてなかったので、「ラッキー」と。空模様と登場人物の心をリンクさせるような形で、この小説を書いていったんです。
僕の心はどちらかといえば、そうですね、基本いつも晴れ晴れとしています。毎日楽しくて、雲ひとつない真っ青な空という感じです。
晴れか雨なら大丈夫、と自分では思っているところがあって。雨の日もそれこそ傘をさせばいいし、それで足先がちょっと濡れるかな、くらいの感じです。心の天気は曇りが一番やっかいだし、あかんなと思ってるので、そうならないように気をつけているところはありますね。
(次回へつづきます)
(取材・構成/鳥海美奈子 撮影/田中麻衣)
福徳秀介(ふくとく・しゅうすけ)
1983年生まれ、兵庫県出身。関西大学文学部卒。同じ高校のラグビー部だった後藤淳平と2003年にお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。TV・ラジオ・舞台・YouTube等で活躍。キングオブコント2020優勝、13代目キングに。福徳単独の活動として絵本『まくらのまーくん』は第14回タリーズピクチャーブックアワード大賞を受賞。絵本『なかよしっぱな』(2019)刊行。本作品が、小説デビュー作となる。
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