「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第17回
17.「ライオン」
ライオンは、ネコ科で珍しく社会性を持つ生き物だそうです。プライドという名の群れを作り、安心の集団を形成する。サバンナという過酷な環境で生き残るために身につけた、ある種の武器なのでしょう。それはもちろん人も同じであります。この愛すべき世知辛い世界を生き抜くために集団を作ります。その集団は安心を与えてくれもしますし、時には縛り付けられもします。一人でいること、集団に属すること、それらどちらも長所があり、短所があるということでしょう。
先月、TBSドラマ『ライオンの隠れ家』が終わりました。僕はみっくんこと小森美路人が働くデザイン会社のCEO船木真魚役をやらせていただきました。各話1、2シーンほどちょっこりひょっこり、もぐらポケモンのディグダのように出させてもらう役柄でありましたが、演者の皆さん、ドラマに関わるスタッフの皆さんの「良いもの」を作ろうとする純真な思いとその果てなき熱量にたくさん感銘を受け、胸をぶりんぶりんに揺さぶりんさせられました。
さらに与えてくださったセリフの一つ一つがとても面白くて楽しくて、言い終えてしまうのが惜しく思ってしまうほどでした。貴重なジュエリーのような経験をありがとうございました。僕の心のジュエリーボックスに収納させていただきます。時々、取り出して、首にかけたいと思います。ネックレスだったのですね。
まだ観ておられない方がいらっしゃいましたら、様々なサブスクで観られるとのことなので、ぜひぜひお目目をくりくりさせて、瞼カッぴらいて観てください。
ライオンは、百獣の王とも呼ばれ、サバンナの王様です。強いものの象徴であったりもします。しかしながら、そんな強いライオンにもきっと様々な苦労はあるのではないでしょうか。
―・―・―・―
サバンナをてくてく歩く一人ぼっちの若いライオン。立派なたて髪をゆらゆらゆらしながら、立ち止まり、大きな口で大きなあくび。
ライオン「くわあああ」
ライオンは先ほどから感じていた気配を確認すべく、くるっと後ろを振り返った。その気配の主は、こそそこそそっと木の陰に隠れた。しかしながら、その木からずいぶんと首がはみ出ているのは若いキリン。
ライオン「何?」
ライオンはぶすっと尋ねた。
キリン「別に、何が?」
キリンは、木の陰から出てきて、そのぶすっとをお返しするようにぶすっと答えた。そしてライオンの後ろをとことこと付いてきた。
ライオン「いや、付いてくるなよ」
キリン「別に方向が同じだけだし」
ライオン「あ、そ」
ライオンはまたてくてく歩く。気配でわかる。絶対キリンが付いてきてる。ライオンは急に振り返った。するとキリンは慌てたように、急いで木をまねる。首が長いから、サバンナの生き物の中では最も木っぽいかもしれない。でも「サバンナの生き物の中では」強いていうなら、である。こうまじまじと見てみるとめちゃくちゃにキリンなのである。
ライオン「だから何?」
キリン「は? 何が?」
ライオン「同じ方向なら先行っていいよ」
キリン「行かないし」
ライオン「じゃあ何?」
キリン「お前は一人ぼっちか?」
ライオン「……一人ぼっちと言えば一人ぼっち」
キリン「じゃあ、一人ぼっちじゃないと言えば?」
ライオン「……一人ぼっちじゃない。なんだこれ」
キリン「よし、わかった。俺が付いていってやろう」
ライオン「は? なんで?」
キリン「俺がいるから一人ぼっちじゃないと答えたのだろう。いいよ。一人ぼっちじゃない、にしてやろう」
キリンだからやはり上から目線なのだろうか。このなんだかよくわからないことを言うキリンはほっといて、ライオンは先を急ぐ。その隣にキリンが並ぶ。少し進むとキリンがライオンに問いかけてきた。
キリン「なあ」
ライオン「なんだよ」
キリン「気づいてるか?」
ライオン「気づかない方が変だよ」
ライオンはため息を一つ、振り返ると、体の大きなゾウがちょこちょこ歩きで付いてきていた。ちょこちょこ歩きなのは足音を限りなく小さくするつもりだろう。でも、その体の大きさからくる圧倒的な存在感はあまりにも消せていない。ライオンはゾウに話しかける。
ライオン「何?」
ゾウは自分の大きな耳で顔を覆い隠し、体をとても小さくして答えた。それでもちゃんと大きい。
ゾウ「僕はいないぞう。僕はいないぞう」
キリン「いや、いるだろ。めっちゃいるだろ。お前ゾウだろ」
キリンは一切気を使うことなく、答えた。
ライオン「キリン、よしなよ。ゾウ、お前はいないんだな」
ゾウ「そうだぞう。僕はいないんだぞう」
ライオン「そうか、いないんなら仕方ないな。もう行くよ」
そう言われたゾウは思わず耳をパタパタ開いて、ライオンたちを引き止める。
ゾウ「ちょっと待つぞう」
ライオン「なんだよ、いないんじゃなかったのか」
ゾウ「いないのは嫌だぞう」
ライオン「いや、ゾウが自分でいないって」
ゾウ「いないのは嫌だぞう。ひどいぞう」
ライオン「いや、俺は何も言ってないだろ」
ゾウ「一人ぼっちだぞう」
ライオン「……」
ゾウ「一人ぼっちは嫌だぞう。いないのも嫌だぞう。二人以上がいいんだぞう」
ゾウは大きな目から大きな涙をぽとんぽとんとこぼした。その様子を見たキリンはライオンを嗜める。
キリン「ライオン、もうそれぐらいにしておけよ」
ライオン「だから俺、何も言ってないって」
キリン「ゾウ、泣いてるだろ」
ライオン「見てるから、知ってる」
キリン「もう、いい加減にしてやれよ!」
ライオン「だから何もしてないんだって!」
キリン「……どうすんだよ、ライオン」
ライオン「どうするって……」
キリン「ゾウ、お前はどうしたい?」
ゾウ「僕がいれば三人になるんだぞう」
キリン「ああ、そうだな。三人になるよな」
ゾウ「三人は二人以上だぞう」
キリン「そうだな、三人は二人以上だな」
ゾウ「だから三人になるんだぞう」
キリン「おい、だとよ」
ライオン「……わかったよ、わかった。勝手にしてくれ」
そうして、ライオンとキリンとゾウは前へ前へ、進んでいきます。流れが速い川を渡る時は、手や首や鼻を繋ぎながら渡ります。高い山を登る時は、キリンの首とゾウの鼻を結んでロープにして登ります。熱い砂の砂漠を越える時は、みんなで「あちい、あちい」と飛び跳ねながら越えていきます。高い壁を登る時は、登れなかったので、みんなのタックルで壊します。
全部、一人ではできないことでした。みんながいたから越えられました。でもこの三人はそんなことに気づかず、ただ今できることを一生懸命、頭を捻って考えて行動しているだけ。
それでいいのさ、ライオンとキリンとゾウ
前へ進むんさ、ライオンとキリンとゾウ
どこへ行こうとしてるのか? って
そんなの知らないさ、ライオンとキリンとゾウ
前へ進むんさ、ライオンとキリンとゾウ
ライオンとキリンとゾウは、背の低い草原に到着しました。三人は互いに顔を見合わせ、微笑み合います。そして、三人は後ろを振り返ると、数えきれない仲間たちが後ろにいました。そのたくさんの仲間たちはみんな、なんだか幸福そうでした。そんな仲間たちを見たライオンとキリンとゾウは、再び、互いに顔を見合わせ、微笑み合いました。
―・―・―・―
以上です。何が以上なんだという疑問質問あるかと思いますが、堪忍してください。ちなみに今年の2月に何事もなければ、タンザニアでモノホンのライオンを見に行く予定です。
平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。