「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第14回

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第14回
唯一無二の世界観で今大注目のお笑いコンビ〝男性ブランコ〟。そのネタを作る平井まさあきさんの脳内は一体……? たっぷりの妄想をふりかけた、おいしいおいしい平井さんの日常をお楽しみください!

14.「リバーサイド備忘録」

 先日、豊岡演劇祭で行われた劇団スリーピルバーグスによる野外劇「リバーサイド名球会」が無事終幕しました。先んじて、ご来場くださった方々、真にありがとうございました。そしてスタッフさん、多くのボランティアスタッフさん、並びに関わってくださった方々に多大なる御礼を霧雨シャワーの如く降り注がせてください。ありがとう水分によってびしゃびしゃにさせてしまい申し訳ないことこの上なきであります。この公演までの期間を含め、最後の最後まで、とても慈しむべき尊い時間でありました。

 僕はこのスリーピルバーグスの前回公演「旅と渓谷」という永福町駅の屋上で行われた作品を観劇した際、野外ならではの役者さんたちの躍動感、天候の変化もお芝居に組み込まれているライブ感、そして素晴らしき物語の強度に感銘を受け、感動し、感涙しました。この感三兄弟が立ち現れることはなかなかないです。僕個人としても、こういう野外や水族館、博物館など、少々風変わりな場所でコントライブをやりたいという思いもあったので、ただただ「凄いなあ」というのと「悔しいなあ」というのが混ざり合って凄悔カフェラテが完成した覚えがあります。

 今回の公演では、演者として関わらせていただくことになりました。この公演について簡単に説明しますと、我が故郷、豊岡にある『こうのとりスタジアム』という球場で行う福原充則さん作演出の作品であります。球場を使ったお芝居なんて、胸の奥底から湧き起こるワクワクを押し込めるなんてできないでしょう。もしもワクワク禁止法が施行されていたならば、僕は牢屋にぶち込まれていたでしょう。

 演者陣は、八嶋智人さん、佐久間麻由さん、久保貫太郎さん、永島敬三さんと僕の5人です。みなさん百戦錬磨の魅力に満ち満ちた素敵ステッキをブンブン振り回している役者さんたちです。ふぃ~、この時点で僕は足引っ張り手引っ張り確定だったので血反吐努力も確定となりました(もちろんどの現場でもそれぐらいの心意気でやらねばなのですが)。

 そしてキョクキョク紆余曲折を経て、本番を迎えました。この公演は三部構成となっており、最初の舞台は球場の駐車場、次は球場内放送室の中、最後はグラウンドとなります。舞台が変わるごとにお客さんが移動していくスタイルです。ワクワクしますね。あ、しまった!ワクワク禁止法があるからダメだ、いや、ワクワク禁止法なんてないか、さっき勝手に言っただけか、そっか、はい。

 最後のグラウンドでは実際に野球をやります。その結果次第で流れが変わったりするのです。これも、もうほんとうにワクワクしますでしょ。

 深いところの話はネタバレ的要素を含んでしまうので一応の一応やめておきます。しかしながら、一つだけ、お話しさせてください。

 今回の公演では、元々雨予報だったのが後ろにずれたり、上演中、大きな雲の切れ間の中で出来たりと天候に恵まれておりました。

 千秋楽の最後の回、非常に素晴らなシーンがラストにあるのですが、その時に、ゆっくりとサララーっと雨が降ってきたのです。そのシーン自体も幻想的であるがゆえ、とても神々しいものになりました。それがとても目に焼き付いております。

 終演後、八嶋さんに「雨良かったですよね~」と言ったら「え?雨降ってなかったよ」と。

 平井「いやいや、降ってましたよ」
 八嶋「ああ、俺の芝居で、降ってるように見えたんだな」

 
 かっこいい。
 

 しかしながら、すみません、ちゃんと実際、雨降ってました。これは八嶋さんジョーキングです。

 このあと、八嶋さんが言ったのか、この会話を聞いていた誰かが言ったのか、僕が思っただけなのか、ちゃんと覚えていないのですが、どこからか「雨のおばけ」という言葉が出てきました。

 雨のおばけ。

 例えば、男の子とおじいちゃんが道を歩いている時の会話
 

 男の子「あ、雨降ってきたよ。おじいちゃん」
 おじいちゃん「そうだね。男の子」
 男の子「あれ?」
 おじいちゃん「どうしたんだい? 男の子」
 男の子「見てよ。雨が降ってるのに服も地面も濡れてないよ」
 おじいちゃん「本当だ」
 男の子「なんでだろう」
 おじいちゃん「良いかい?男の子。これは雨のおばけだよ」
 男の子「雨のおばけ?」
 おじいちゃん「そう。雨のおばけだから、服も地面も濡れてないんだ」
 男の子「そうなんだ。あ、見て。太陽が出てきた」
 おじいちゃん「お、出てきたね。太陽が」
 男の子「雨のおばけさんいなくなったね」
 おじいちゃん「いなくなったね。雨のおばけさん」
 男の子「あれ?」
 おじいちゃん「どうしたんだい? 男の子」
 男の子「なんでだろう。太陽があるのに僕らに影が出てない」
 おじいちゃん「それはね~~~~~~~」
 男の子「うん」 

 

 おじいちゃん「太陽がめちゃくちゃ真上にあって、あまりにも真上過ぎて、影がもうほぼほぼ出てないように見えるからだよ!! 実際よく見てみると、若干影っぽいのがあるんだよ!!」
 男の子「本当だ。若干影っぽいのが見える!」
 おじいちゃん「若干ね」
 男の子「若干」

 

 雨のおばけでした。怖く終わりそうだったので、無理くり舵を切ってやりました。

 兎にも角にも初めての野外劇「リバーサイド名球会」は、とてもエキサイティングで楽しくて、サプライジングで胸躍り、ユーモラスで腹抱え、忘れ難き良き体験でした。これをもって備忘録とさせていただきます。 


平井まさあきさん

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。


「妄想ふりかけお話ごはん」連載一覧

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