辛酸なめ子「お金入門」 25.サブスクファッションで物欲沈静化計画

辛酸なめ子「お金入門」25
類いない感性で世相を活写しつづける辛酸なめ子さんが、お金と仲良くなって金運をアップするべく模索する日々を綴ります!

 震える手でGoogleを開き「スペースX 株価」で検索。次の瞬間、「ぇっ」と、声にならない声が出て、呼吸が止まり、周囲が無音に……。135ドルで買ったのが、ついに株価119ドルになってしまいました。暑くて出る汗とはまた違った冷たい汗がじわじわ出てきて、体温が上がったり下がったり、不快な汗が混じり合っています。

 スペースXの株価の急降下による無重力感が続いていて三半規管がおかしくなってきました。一時は225ドルくらいまで上がっていたのに、今や買い付けた金額より下がってしまい含み損を抱えています。やはり社債の発行が悪影響だったのでしょうか。スターシップの打ち上げがエンジンの不具合で中止になった件もありました。スペースXだけではなく、証券会社の方に勧められるがままに欲を出して買った国内の半導体の株もかなり下がってしまいました。そちらの方が金額が多い分ダメージが大きいです。

 7月の連休は旅行やスパなどお金がかかるところにはどこにも行かず、家で静かにハイテク株や半導体について調べていました。キオクシアが訴えられた、フラッシュメモリの特許権侵害訴訟の行方について。中国の高性能AI「Kimi K3(キミ・ケースリー)」が、日米のAIや半導体業界に与える影響について。半導体メモリ、DRAMとNANDそれぞれの特性や需要について。少しでも希望を見出したいのですが、素人にはなかなか理解できません。素人の考えですが、スペースXも半導体の会社もパイオニア精神でがんばっているのに、不当に売られすぎている気がします。

 いったん株の調子が良かった時は気が大きくなって服や雑貨などいろいろ買っていましたが、もはやそんな贅沢はできない心境です。しかし先日、親しい女性編集者・Yさんが耳寄りな情報を教えてくれました。取材の場所にシックな黒いワンピースで登場したYさん。「今日は貴族っぽい雰囲気ですね」と言うと「ぜひお勧めしたいサービスがあります」とのこと。Yさんは取材の感想もそこそこに、最近利用を始めたという、ファッションサブスクサービスについてプッシュしてきました。「今日のフィリップ リムのワンピースもレンタルしたんです。とにかくブランドがいっぱいあって手頃な価格で借りられるんです」とのこと。「10年くらい前に私も別の服のサブスクをやっていたのですが、そこは月額1万円で3着送られてきて、自分で服を選べなかった記憶があります」と言うと「私がやっているA社のサブスクは自分で選べて、月額12430円のスタンダードプランは毎月3着レンタル可能。必要ない月は休会できて、その間月額料金はかからないけれど、余ったレンタルチケットは使えるのも良いです」

 Yさんによると、スタンダードプランは毎月レンタルできるチケット3枚と、返却に使える配送チケットが2枚ついてくるとのこと。返却時のクリーニングは不要というのもありがたいです。毎週のように服を買ってしまう物欲まみれの私は、同じく月3着のプランにすれば、少しは出費も減るでしょうか。そのサブスクのサイトを見たら、ヌキテパやミュベール、イザベル マラン、メゾン キツネ、シーバイクロエなど好きなブランドも結構入っていて、1着あたり4000円くらいで借りられるのはお得な気がしてきました。Yさんに勧められるまま、取材後のその足でサブスクサービスのショールームに行って入会してしまいました。お友達紹介特典で、双方にレンタルチケットが1枚付与されました。

 基本はネットで服を選ぶのですが、ショールームに行って、並んでいる一部の服から選んで借りることもできます。トップスやボトムス、ワンピースだけでなくアクセサリーやバッグなどもありました。最近知人の結婚式に持っていくバッグがなくて、1回使うためだけにZARAで7000円くらいのハンドバッグを買ってしまったのですが、もっと早くこのサービスを知っていれば……という思いです。普段は私にはなかなか買えないような5万円以上の服も結構あるようです。

「最新のファッションをバイヤーが買い付けています。パーティやフォーマルの席など、オケージョン用の服も結構ありますよ。あと、これ以上服を増やすのがしんどいという方や、断捨離したいという方も利用しています」と、スタッフさん。

 ぜひ私の大量の服もサービスに組み込んでほしいところですが、聞いたら買取サービスは行っていないとのこと。逆に、借りていて欲しくなった服は割引で購入できるサービスもあるそうです。

 とりあえずこの実店舗で気になった「ベイジ,」というブランドのベージュのスカートと、「トゥモローランド コレクション」のストライプのトップスを借りることに。スカートが30000円、トップスは19000円で売られていたそうで、大人の女性にふさわしい価格帯です。

 少し懸念していたのは、過去に何人もの人が着た服なので他人のエネルギーや残留思念がまとわりついていないか、という点。クリーニングされ、きちんと管理されているので大丈夫だと思うのですが……。

 数日後、レンタルスカートを着た日に、一瞬自分を見失いそうになるできごとが。カフェで席を間違えて、他の人が荷物を置いてキープしていた席に座ってしまったり、お茶をこぼしたりしてしまいました。服にかからなくて良かったです。気にしすぎなのかもしれませんが、借りている服だとちょっと調子が狂うようです。「通常の着用範囲を超える汚破損が生じた場合」のための安心保証サービスもありますが、さすがにそこまで汚したり破れることはないだろうと思って入っていませんでした。

 数日後、新たな服を借りに行きました。実店舗に取り寄せて確認できるので、ヌキテパのワンピースとイザベル マランのブラウスを手配していただきました。ヌキテパは買ったら36000円、イザベル マランは15万9000円です。今までそんな高いブラウスなんて縁がありませんでした。期待を胸に、運ばれてきた服を見ると、ブラウスはくったり感が漂っています。「お疲れ様」とねぎらいの気持ちが芽生えるほどで、年数も経過していそうです。もしかして品番にヒントがあるのでしょうか。調べたら「2212131……」と「22」から始まっていて、レビューを見たら22年の書き込みがありました。ということは4年前のアイテムのようです。長い間、大切に借りられてきて環境にやさしいサービスです。でも、クタクタ感がどうしても気になって借りるのはやめました。ヌキテパのワンピースは生地もしっかりしていたので借りることに。ブラウスの代わりに、実店舗で目に入ったイタリアのブランド「コート」のストライプとレースのワンピースをレンタル。こちらは買うと89000円もします。

 借り物でも高い服を着ていると、他の服への判断基準も高くなって服欲が抑えられるのかもしれません。レンタルしたワンピースやスカートなどを着ている日に、いつもの習慣で三越や伊勢丹、ルミネ、髙島屋、丸ビル、新丸ビル、他、アパレルショップやセレクトショップの路面店に寄ったのですが、買ったのはセールなどで1万円以下のトップス4枚ほど。伊勢丹や三越は、良いバッグがあれば買いたい(株の含み損のことは忘れて)、と思って寄ったのですが、お店を回ってもとくに買いたいものは見つからなかったです。高いワンピースの効果か、自分の中の物足りなさや、何でも良いから何かを買いたい、という服欲が6〜7割ほど抑えられるのを体感。サブスクサービスでワンランク上のアイテムを借りるのは、節約効果がありそうです。

 占い師の友人と会う機会があったので、このサブスクサービスとの相性や、続けるべきかをカードで占ってもらいました。すると、こんな鑑定結果が。「最初は、これは良いと思って始めても、だんだん好みと合わないとか、思っていたのと違う点が見えてきて、結局やめる、というのが出ていますね。服が増えすぎるとのことですが、リサイクルボックスに入れたり、寄付したりするのも良いと思います。あと、借りる服は実際エネルギーが少し落ちているので、アウトレットなどで安い新品を買った方が良いかもしれません」という、かなりリアリティを感じる内容でした。

 たしかに最初は、お得で素晴らしいサービスだと思って始めたのが、今は少し冷静になってきています。10年前に入っていたサブスクサービスは、勝手に3着選ばれて送られてきて、新鮮だったのですが、知らないブランドが多くて、月1万円に見合っているのかが謎でした。今回のサブスクはブランド数も多くて、お高いアイテムも多く充実しているのですが、品番やレビューを見ると年月を経ている服も結構ある印象です。毎週新しい商品が入荷されて、そこに好きなブランドが入っていれば良いのですが、定番のおとなしめな服が多いようです。ちなみに借りなかったイザベル マランのブラウスは、スタッフさんに聞いたら12回借りられているとのこと。借りた人、12人が週一で着ていたら50回くらいは使用されている計算になります。見ず知らずの人とこんなに服を共有する経験はないので貴重ともいえます。スピリチュアルな集まりでサイコメトリー(ものに触れることで、そのものにまつわる過去の記憶や残留思念を読み取るサイキック)の練習をしたとき、結構当たっていた体験があるので、今回も、前に着た人のことを想像して、サイキック能力を鍛える練習台にしています。例えば、このトップスを前に着ていた人はいつも喉が渇いていたとか、このスカートをはいていた人はがんばりやさんだったとか、勝手に想像しています。

 一方で、レンタル服を着ているときに限って訪れる関門や試練もあります。例えば、薄い色のワンピースを着ている日に、たまたまスープパスタの店に行こうと誘われる、とか。紙エプロンで飛散を防ぎました。また、89000円のワンピースを着て颯爽と歩いていたら、段差につまずいて、派手に転びかけました。転びかけたのはなんとかギリギリ持ちこたえましたが、もし激しく破損したら修繕費用が発生するところでした。何かのトラップのようでした。レンタル服を着ている時にプチトラブルが起こると、服のエネルギーのせいにしてしまうのは悪い癖です。

 他の人のエネルギーの影響を考えると、サブスクサービスを賢く利用する人は、経済観念がしっかりしていて、地球環境についても意識が高い人なのだと想像します。良い影響を取り入れながらしばらく利用したいです。サブスクをやめた時の物欲の反動が恐ろしいですが……。

今月の一言

皆で服をシェアして長く大切に着る服のサブスクは、環境に良いことをしていると思えば、着ているだけで自己肯定感が少し上がります。

 

辛酸なめ子「お金入門」25 イラスト

(次回は9月24日に公開予定です)

 


辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
1974年東京都千代田区生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部卒業。漫画家、コラムニスト、小説家。著書に『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』『女子校礼讃』『電車のおじさん』『煩悩ディスタンス』『世界はハラスメントでできている』『この人生、前世のせいってことにしていいですか』など。文化放送「武田砂鉄 ラジオマガジン」木曜後半レギュラー。
Xアカウント@godblessnameko

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