真梨幸子『聖女か悪女』
さあ、今こそデトックスしましょう
気がつけば、作家生活十五年を迎えました。
そんな記念すべき年に『聖女か悪女』を上梓することになったのは、大袈裟に言えば「運命」のようなものを感じます。
というのも、本作品には私のライフワークというか、テーマといえる三つの要素が含まれているからです。
ひとつめは、タワーマンション。
デビュー作『孤虫症』は、ずばり、タワーマンションが舞台です。謎の「寄生虫」がタワーマンションの住人に巣食い、人間の欲と嫉妬をあぶり出す……というお話です。
ふたつめは、マルキ・ド・サド(サド侯爵)です。
サド侯爵が登場するのは、十作目の作品となる『パリ警察1768』。警官の目から見たフランス革命前夜のお話で、今までにないサド侯爵像に挑戦しました。
みっつめは、蠱毒(こどく)。中国最古にて最強の呪術で、日本では「犬神」として有名です。
こちらは、『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』をはじめ、あちこちで登場しています。
そして、『聖女か悪女』です。
『きらら』で連載を依頼されたとき、「思い切った作品を書こう」と決めました。とことんはじけた作品を、私の中の澱(おり)をすべて吐き出すような作品を書こうと。すると、おのずと前述の三要素が次々と飛び出してきて、物語の縦糸横糸となっていったのです。
連載一回目の原稿を担当編集者に送ったとき、「ヤバい作品ですね……ちょっと焦りました」という返事をいただきました。もしかしたら、書き直しか?と覚悟もしていましたが、無事OKをいただき、連載最終回まで駆け抜けることができました。
書き終えたときの、あのすがすがしさ。毒々しい話なのに、不思議と清涼感があったのです。たぶんそれは、私の中の澱をすべて吐き出した結果でしょう。
つまり、デトックスです。
そう、この作品にはデトックス効果があります。「タワーマンション」「サド」「蠱毒」という強烈な毒が、内なる毒を消してくれたのです。
折しも、今は未曾有のコロナ禍。人々の中に毒が溜まりに溜まっていることでしょう。
だからこそ、『聖女か悪女』を読んでいただきたく思います。
そしてデトックス効果を経験してほしいと思います。
真梨幸子(まり・ゆきこ)
1964年宮崎県生まれ。87年、多摩芸術学園映画科(現・多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。2005年、『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞し、デビュー。11年、文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』が累計50万部を超えるベストセラーに。著書に『女ともだち』『人生相談。』『5人のジュンコ』『6月31日の同窓会』『鸚鵡楼の惨劇』『祝言島』『縄紋』など。