今月のイチオシ本 エンタメ小説 吉田伸子

『キッズファイヤー・ ドットコム』
海猫沢めろん
講談社 本体:1,300円+税

 主人公の白鳥神威は、新宿歌舞伎町のカリスマホストで、ホストクラブBLUE†BLOODの二代目店長だ。一八歳から二七歳までの九年間続けてきた「あらゆることをプラスに考える癖」で、人生を切りひらいてきた。

 その日も、いつものように若手キャストたちに「神威店長ウェーイ!」と見送られて帰宅したのは、北新宿にあるひとフロアに一室しかないデザイナーズマンション。エレベーターで六階に降りると、部屋のドアの前にはベビーカーがあり、中には神威あてのメモとともに、赤ん坊が乗っていた──。

 誰とも枕営業していない、というのを誇りとする神威だが、「つき合った女は何人もいた」。そこで神威がしたことは、母親探しではなく育児!

 ところがどっこい、育児はそれほど容易くない。赤ん坊との同伴出勤は、あっという間に店の営業悪化に繋がってしまい、困った神威は元ホスト仲間で、今はITの上場企業を経営する三國孔明の力を借りて、クラウドファンディングで赤ちゃんを育てることを思いつく。

 神威たちが立ち上げたサイト「KIDS-FIRE.COM」の謳い文句は「ITで日本の子育てを変える!」。目標額は5000万! それは、「赤ちゃんを抱えて生きていくとしたら問題は結局のところ金なのではないか」というのが、子育てに対して神威が出した答えだからだ。「基本プラン」(50万円×20人)に始まり、命名権を加えた「ゴッドファーザープラン」(1500万円×1人)から各種プランを取り揃え、炎上上等で立ち上げた子育てプロジェクトは、果たして成功するのか──。

 タイトル作の六年後という設定で、プロジェクトによって育てられた「KJ」を描いた「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」は、切なカッコいい!

 設定は突拍子もないが、全体のトーンはすこんと明るくて、お笑い要素も盛り沢山。だけど、それらの中にちりばめられている・真実・に胸の深い部分がぐっとくる。熱い熱いパンクロックのような一冊だ。

(文/吉田伸子)