今月のイチオシ本 エンタメ小説 吉田伸子

『ラブセメタリー』
木原音瀬
集英社 本体1,300円+税

 自分は性的な嗜好に関して、差別意識は持っていない、と思っている。LGBT、いわゆるセクシャルマイノリティーに対しても、今はまだ生き辛さはあるだろうけど(世の中のシステムとか)、それがなくなればいいな、と思う。けれど、小児性愛だけは違う。小児性愛に関してだけは、何というか、こう、もやっとしてしまうのだ。いや、もやっとしてしまう、というのはズルい言い方だな。さすがにそれはねぇだろ、と思ってしまうのだ。だから、理解しようとも思っていなかった。そんな私の横っ面をはたいてくれたのが、本書だ。

 4編からなる本書のテーマはズバリ、小児性愛である。表題作「ラブセメタリー」の主人公は、百貨店の外商、という華やかな職場に身を置きつつも、甥に対する秘めやかな欲望を捨てきれない久瀬。彼は、必死で抑え込んでいる自分の欲望に、いつか歯止めが利かなくなるのでは、と恐れ、精神科のクリニックを訪れる。そのクリニックで看護師として働く町屋は、ある朝偶然に、路上で行き倒れたかのように寝ている久瀬に気がつき、声をかける。そのことをきっかけに、町屋は久瀬の性癖を知りつつも、久瀬に惹かれていくのだが……。

 自分の欲望を満たすことが、犯罪に直結してしまうことの恐ろしさ。けれど、その恐ろしさよりも、突き上げてくる欲望の深さ。はっ、と胸を突かれたのは久瀬が町屋に向かって放つ言葉の数々だ。

「どうして僕は、子供に欲情するんだと思う? 僕は生まれてから一度も、子供に欲情する人間になりたいと願ったことはないよ。望まないのに、永遠に結ばれない子供と愛し合いたいと思うのは何故だと思う?」

「僕はね、自分が怖いんだよ。犯罪なんて絶対に起こしたくない。家族には死んでも迷惑をかけたくないんだ。(中略)僕は思うんだよ。子供にしか欲情しない人間にならなかった幸運を、みんなもっと享受するべきだってね」

 久瀬のひりつくような想いが、その心からの叫びが、読後も錘のように胸の中に残り続ける。

(文/吉田伸子)