今月のイチオシ本 【エンタメ小説】 吉田伸子

『キネマトグラフィカ』
古内一絵
東京創元社 本体1,600円+税

 映画館に行くと、いつもわくわくする。これから始まる二時間余りにどきどきしてしまう。世界が自分とスクリーンだけになって、泣いても笑っても大丈夫。暗闇のなかで一人許されていることの、安心感。その心地良さは、家でDVD、では絶対に味わえない。

 本書は『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』で注目を集めた古内一絵さんの新刊で、映画館と映画への、そして、映画に携わる"映画屋"たちへの愛に満ちている。

 物語の冒頭、銀都活劇、通称・銀活で映画プロデューサーを務める北野咲子は新幹線に揺られている。彼女が向かっているのは、群馬県の桂田市にある、市内で最古の映画館・桂田オデオンだ。老舗映画館は、その日、七十年に亙る歴史に幕を下ろすことになっていた。

 その日、桂田オデオンに集まることになったのは、銀活で咲子と同期の面々──仙道和也、水島栄太郎、葉山学、小林留美、小笠原麗羅──。桂田オデオンは、"心の病"から銀活を退職した栄太郎が、取引先の興行会社の社長の娘と結婚し、支配人となっていた劇場でもあったのだが、もう一つ、彼らが集まるのにふさわしい理由があった。それは、二十六年前の、"ケヌキ"と呼ばれる、一本のフィルムのリレーの起点が、桂田オデオンだったからだ。

 初めての女性営業職ということで味わった苦い想いは、制作に携わるようになって、「ママさんプロデューサー」になった今でも変わらない。女であることの壁に常に向き合ってきた咲子。寿退職を選んだものの、子宝に恵まれずにいる留美。抜きん出た容姿と語学力で、銀活の国際部で活躍した後、父親の会社を継いだ麗羅。

 自由に生きて来たつもりが、ある出来事から自分の器の限界を思い知る和也。生来のお調子者キャラである学。こと映画に関しては頭でっかちな栄太郎。

 過去のフィルムリレーとともに描かれる、彼らそれぞれのドラマがたっぷりと読ませる。映画館で映画を観ているかのような、ウェルメイドな一冊である。

(文/吉田伸子)