『スピノザの診察室』夏川草介/著▷「2024年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
優しく生きることは愉快なこと
夏川さんに新作の執筆を依頼したのは、もう十数年も前のことになります。
出たばかりの『神様のカルテ』を読んで感激し、勇んで長野県の松本市をお訪ねしたのを昨日のようにはっきりと覚えています。
夏川さんは笑いながら「いつかお仕事をしましょう」と言って下さいましたが、それから日本には幾つもの厄災があり、コロナに見舞われ、夏川さんは常に作家業より、本業である医師としての活動を優先されてきました。
その間、ずっと夏川さんのご活躍を追いかけながらも、なかなかご縁とタイミングに恵まれず、その「いつか」はなかなか訪れませんでした。
改めて執筆依頼を差し上げたのは、4年ほど前、水鈴社を立ち上げる直前です。夏川さんはまた笑いながら「それは書かないわけにはいかないですね」と言って下さり、そのお言葉通り、全く先行きの見えない水鈴社に『スピノザの診察室』をご執筆下さいました。
夏川さんは、インタビューなどで度々、
「生や死に関わることなど、〝情報〟ではなく〝物語〟でしか伝わらないものがあると考えています」
「一生懸命に優しく生きることが、こんなにも美しくて、しかも愉快なことなのだということを発信し続けたいと思っています」
と語られています。
私事で恐縮ですが、本作を刊行してから程なくして、普段ほとんどやり取りをすることのない、さほど熱心な読書家でもなかった80歳の父から、熱い感想が届きました。
小説の面白さを一人でも多くの方々にお伝えしたいという一心で本作りをしてきましたが、これまで知らなかった父の一面を垣間見て、『スピノザの診察室』は極上のエンターテインメントであると同時に、誰かの人生を良い方向に変えうる一冊になるかもしれないという手応えを感じているところです。
なお、漫画家の五十嵐大介さんは、わざわざ京都まで足を運んでロケハンをした上で、渾身の表紙絵をお描き下さいました。
素敵なデザインをして下さったのは、名久井直子さん。
現在、夏川さんは続編の執筆に取り掛かって下さっています。
この作品を令和を代表するシリーズとして読者にお届けすることが、水鈴社の使命だと思っています。
ぜひ、お読み頂けたら幸いです。
気持ちが少し前を向くこと、そして甘いお菓子を食べたくなること請け負いです。
──水鈴社 代表取締役 篠原一朗
2024年本屋大賞ノミネート
『スピノザの診察室』
著/夏川草介
水鈴社
くわしくはこちら