ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第126回

「ハクマン」第126回
インボイス制度のせいで
事務処理がKM(クソ面倒)な
確定申告シーズンがやってきた。

2月中旬も過ぎ、我々フリーランスにとっては本格的な確定申告シーズンである。

しかし、こうやって催促が来てから原稿に取り掛かる奴がいるのが作家業界だ。

2月の段階で確定申告を始めるなど、まだ連載の決定すらしていない漫画の巻頭カラーを塗りだしてしまうが如きフライングであり、逆に「早きに失している」と言える。

だがそういう私も、税理士が例年よりかなり早めに催促をしてきたため、なんと確定申告シーズン前に書類を出し終わってしまった。
これは銭湯に向かう道中で全裸になっているようなものであり、もはや国によっては逮捕されてもおかしくない変態行為といえる。

その後無事書類に不足が見つかったが、顧問契約以来数年間、頑なにメールアドレスを教えてくれず、去年ついに「FAX」という言葉が飛び出てきた税理士事務所が、今年になってアドレスを教えてくれるという文明開化が起こったため、残りの書類もメールで送信完了した。

これで先方の光ケーブルが目詰まりを起こしているか、高齢者にありがちな「メールアドレスを持っているがメールをチェックする習慣がない人」でなければ、これで私の確定申告作業は終わりのはずである。

今年は漫画家内でも反対の声が強かった「インボイス制度」が始まってはじめての確定申告である。
私個人は若干税理士に提出する書類が細かくなったぐらいでさほど大きな影響を感じていないが、依頼せず自分で確定申告をする者からは「クソ面倒くさくなっている」という声もあがっている

インボイスにより事務処理がKM(クソ面倒)となり、個人での処理が無理となれば毎年数十万の顧問料を払い税理士などに委託せねばならず、それだけでもフリーランスにとっては負担増な制度なのだ。

だが税理士や経理担当者側も去年と変わらぬ報酬や給料でよりKMな作業に挑まされているということであり、むしろ真っ先に影響を受けているのはフリーランスよりも税理士事務所や企業の事務方なのではないだろうか。

だが今後「インボイスによる事務処理の煩雑化による顧問料引き上げ」などが起これば無事負担はフリーランスに帰結することとなる。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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