monogatary.comとの『超短編! 大どんでん返し Special』発売記念コラボコンテスト、大賞作品発表!
monogatary.comと小学館文庫編集部がタッグを組み2023年12月に開催した『超短編! 大どんでん返し Special』発売記念コラボコンテスト。お題「2000字で大どんでん返し」にいただいた応募総数はなんと424作! たくさんのご応募をありがとうございました。予選通過作品として50作、最終候補作品として5作を選出し、選考を重ねた結果、大賞は「ルームシェア」(ユガワラ・著)に決定、他4作品を優秀作といたしました。
この度、著者のユガワラさんと小学館文庫編集部とで改稿した大賞作品「ルームシェア」を大公開。入社同期とルームシェアをすることになった「俺」だったが……インパクト満載の「大どんでん返し」をお楽しみください!
★monogatary.comの大賞発表記事はこちら。優秀作へのコメント等もご紹介いただいています。
お題:2000字で大どんでん返し
ルームシェア
築30年のアパートの2DKの一室、今日からはそこが俺とヒロトの住まいだ。
俺たちは、この春都内のメーカーに新卒で入社した。俺は営業、ヒロトは事務。明るくて声のでかい俺と、やや繊細で思慮深いヒロト。性格は全然違ったけれどなぜかやたらと気が合った。
ふたりとも郊外にある実家から通勤していたが、満員電車に長時間揺られる生活に音をあげて会社の近くにあるアパートで一緒に暮らすことを決めた。
俺はこれまで実家を出たことがなく、ルームシェアももちろん初めてだったので、わくわくしながら引っ越してきたのだけれど……。
今朝、荷物を運び入れて驚いた。
き、汚い。
至る所に服が脱ぎ捨てられ、床にはカップ麺の容器や空のペットボトルが転がっていた。散らかったものに覆われてフローリングはほぼ見えない。シンクや洗面台のまわりは水が飛び散ってびしゃびしゃだった。
ヒロトは2日ほど前に引っ越してきて先に生活を始めていたのだが、ここまで汚れるかというくらいふたつの部屋もキッチンも酷い状態だった。
俺は荷解きをしながら散らばったごみを片付けて回った。水回りをタオルで拭いて、衣類とともに洗濯機に放り込む。わずかに空いたスペースに腰を下ろすと、ワックスをかけたばかりの感触がつるつると心地良い。ヒロトは俺の方を気にもせず、掃き出し窓の横に寝転んでスマホゲームを楽しんでいる。
すぐに注意をしようかとも思ったけれど、彼も初めての暮らしで羽目を外してしまったのかもしれない。それに、ヒロトは散らかった部屋の中であまりにも自然に生活していたので、なんだか言うタイミングを逃してしまった。
とりあえず落ち着いたらまた話をしようと、俺は黙々と手を動かした。
昼にはヒロトが近所のコンビニで弁当を買ってきてくれたので一緒に食べた。だが、そのごみは片付けられることなく放置されていた。さっき拭いたはずの洗面所はいつのまにかまたびしゃびしゃになっている。
これは、ちょっとまずいかもしれない。
生活習慣なのかもしれないけれど、こういうのは後になればなるほど言いにくくなるし、俺もモヤモヤを抱えたまま生活するのは嫌だった。
ヒロトはいい奴だし、これから先も同期として友達として付き合っていきたい。初日から苦言を呈するのは気がすすまないけれど、慎重に言葉を選んで今の気持ちを伝えることにした。
またごみで汚れることがないようにと、片付けが大方終わった夕飯まえにヒロトに声をかけた。
「ちょっといいかな」
お金を出し合って買った2人掛けのダイニングテーブルセット。その椅子に座って彼を手招きする。
「うん、どうした?」
部屋でテレビを観ていた彼は、すぐにやってきて俺の向かいに掛けた。
「あのさ、ちょっと言いにくいんだけど、どうしても今日のうちに伝えたいことがあって」
「うん、いいよ。何でも言って」
俺の真剣な表情に何かを察したのか、ヒロトは背すじを正した。
「単刀直入に言うな。ヒロトって、片付けるの苦手?」
思ってもみなかったことだったのか、彼はきょとんとして俺の目を見る。どういう反応かは分からなかったけれど、雰囲気が悪くなる前にと早口で続きを言った。
「今朝ここに来てから、俺がヒロトの食べたもののごみを片付けて、床に散らかってた服をたたんで、水が飛び散った洗面所やキッチンを拭いたのって、気が付いた?」
「いや、気付かなかった……」
「玄関開けたとき、ごみ屋敷かと思ったよ。正直、困った。俺も全然きちんとしてるほうじゃないけどさ、ごみや服を床に放置するのはやめないか? 引っ越して早々、嫌な話をしてごめんな。できれば長く楽しくルームシェアを続けたいから、今日伝えたほうがいいかなって」
ヒロトの目の周りが、みるみるうちに赤くなっていく。まばたきも速くなり、なんだか泣きそうな表情だった。
「あ、ごめん、言いすぎたな。だからってお前のことを嫌いになったとかじゃなくて、なんかこう、うまくやってくためにはお互い溜め込まない方がいいよなって思って……」
「いや、分かる。僕の方こそごめん。うちの中ではこれが普通だったから、今までなんとも思わなかった。友達もあんまりいなくって、だれも指摘してくれなかったから……むしろ、ありがとう。これから気をつける」
ヒロトは目のまわりを腕でごしごし拭くと、
「この歳で恥ずかしいけど、やっと本当の友達ができた気がする」
と言って笑った。
俺も自分の気持ちが伝わったことが嬉しくて、つられて笑った。
ひとしきりふたりで笑い合ったあと、ヒロトは表情を引き締めてから言った。
「僕からも、ひとついいかな」
彼は、椅子に座った俺の体を遠慮がちに眺めてから言った。
「どうしてずっと全裸なの?」
俺は一瞬ぽかんとしてから答えた。
「うちの中ではこれが普通だったから……」
ユガワラ
物語投稿サイトmonogatary.comに出会い、執筆を始める。マイブームはごく普通のママチャリで街を走ること、お餅を食べること。エッセイを読んでいる気分になるような日常系の小説が好き。