ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第125回

「ハクマン」第125回
電柱工事のためこれから
我が家は停電するらしい。
この真冬に正気の沙汰ではない。

現在東京全域で「大雪警報」らしい。

もちろん東京のことなど私には関係ないが、こちらももちろん寒い、むしろ2月で寒くない日など存在しない。

しかし、我が家はこれから数時間後停電する。
よって自ずと家の機能が全て活動停止することになるのだが、そんな中で私は唯一活動を続ける生命体アイアムレジェンドと化すのである。

おそらく客観的には「バグ」と呼ばれる存在だ。

何故停電するのかというと、私の家の前の電柱を改修しなければいけないそうで、事前通達はされている。
しかし、ここら一帯の住宅はほぼ全てオール電化のはずだ、そんな団地の電気を最も寒い2月に止めるなど正気の沙汰ではない。

だが、それは必要な工事であり、電力会社とて「よもやこの時間に人はおるまい」という、平日午前中の2時間強を狙って工事予定を立ててきたのだ。
そんな時間に何故か家に存在するのだから、やはり先方からするとバグでしかなく「排除できない」という意味ではバグよりも性質が悪い。

いくら2時間程度とはいえ、寒波が来ている真冬にノー暖房で過ごすというのは現実的ではない。
私は長女だが、末っ子なので暑さには耐えられても寒さには無理だ。

一番現実的なのは、停電の間外出するという方法だが、我が村はこの時間帯に健康な大人が家にいるのも不自然だが外をむやみにうろついているのも不自然、という何のために住民税を払っているのかわからない中年の居場所なき場所なのだ。

都会であればこんな時コワーキングスペースや長居できるカフェなど、仕事ができる場があるのだろうが当然こちらにそんなものはない。
唯一あるとしたらネカフェだろうが、平日午前中に田舎のネカフェに来る中年女というむせかえる「いよいよ感」に店のスプリンクラーが作動するかもしれないし、少なくとも店員の咳が止まらなくなる。

そもそも私に「それでも家の外には出たくない」という鋼の意志がある時点で、外出という選択肢は消えている。

おそらく私は、外に助けを求めれば死なずに済んだが、助けを求めに外に出るのが嫌でそのまま餓死するタイプだろう。
基本的に国を批判して止まない私だが、私の餓死で福祉が責められるのは申し訳ないと思う。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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