週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.138 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん

コレクターズ・ハイ

『コレクターズ・ハイ』
村雲菜月
講談社

 とにもかくにも「なにゅなにゅ」である。
「なにゅなにゅ……?」だろうが「何?」だろうが、
 何はともあれ「なにゅなにゅ」なのだ。

 主人公の三川は、玩具会社でカプセルトイの企画をしている。入社して3年。思うように成果を上げられず、なにゅなにゅというキャラクターに癒しを求める、なにゅなにゅオタクだ。

 やれ今日はなにゅなにゅクロックの入荷日だの、今日はなにゅなにゅのカード付きウエハースの発売日だのと、日々慌ただしい。箱買いさえすれば全種類のカードが手に入るお菓子とは違い、いくらお金をつぎ込もうとゲームの景品は手に入る保証がない。

 残念ながらゲームセンスのない三川だったが、幸運にもクレーンゲームオタクの森本と出会う。景品を取ること自体が好きな森本と、景品だけが目当てな三川は、景品を取ってもらう代わりに頭を撫でさせるという契約を交わす。なにやら不穏な空気を感じずにはいられないが、絶対欲しいグッズを頭を撫でさせるだけでもらえるのならばお安い御用?

 他人に髪を触られることに軽いトラウマがある私にとっては、頭を撫でられる行為は心を許した間柄以外では無理だ。

 肩を叩かれるより重く、尻を触られるより軽いだろうが、昔から頭を触られるのが嫌いだという三川にとっても、引っかかりがあるはずだ。しかしせっかくお金をかけて縮毛矯正している綺麗な髪も役に立つべきなのでは、と彼女は髪のケアを怠らない。

 そして彼女の髪をせっせと美しくしているのが、美容院の担当者、髪オタクの品田である。

 

 一見、上手いことバランスよく回っているように見えるこの3人が、エスカレートするそれぞれの執着に次第に歪み、崩れ出す様は、ゾッとする恐ろしさがあり、物語のクライマックスに向けて、恐怖すら感じる衝撃が闇とともに広がっていく。

 突っ込んだ世界から抜け出すのは思いのほか難しく、一度乗ってしまえばまるでエスカレーターのように途中で降りられなくなるのかもしれない。先に乗っていた人たちはどんどん上っていくし、後ろからも次々とやってくる。そうなればもう、できることといったら黄色い線の内側に立つことくらいだ。しかし上りつめた先で、足をすくうようにステップは変形し、吸い込まれるように消え失せ、隙間に巻き込まれてしまいそうになる。

 癒されたかっただけなのに、いつの間にか戦っているのはなぜだろう。

 

 カプセルトイをコレクションしていた側が、気がつくとカプセルの中に閉じ込められている。そんな搾取の闇の恐怖に怯えながら、コレクターのリアルな世界を透かし見るような衝撃作。

 

あわせて読みたい本

チワワ・シンドローム

『チワワ・シンドローム』
大前粟生
文藝春秋

 チワワのピンバッジを気づかぬうちに取りつけられるという謎の「チワワテロ」が全国各地で発生──。自分を守るためにチワワのように弱くなりたい。そんな願望を持つ現代人たち。小さく弱くありながら、強気に吠えてかかるチワワのように、この生きづらい世の中をどうにか生きていくため、つぶらな瞳で小さな牙を剝く。現代社会が色濃く描かれた背景の中で、ミステリ要素を楽しみつつも、「強さ」とは?「弱さ」とは?を問う良作。

 

おすすめの小学館文庫

初恋食堂

『初恋食堂』
古矢永塔子
小学館文庫

 第1回「日本おいしい小説大賞」受賞作の「七度笑えば、恋の味」が改題、文庫化! ただならぬ容姿コンプレックスを持ち、常にマスクに眼鏡で顔も心もひた隠しの主人公、日向桐子。イケ爺匙田さんのささっと作る美味しい料理に心ほどけて、44歳差もなんのそので喉をすべり落ちてゆく恋味。苦味も甘味も旨味となるように人と人との縁は繋がれ、自分の居場所を見いだしていく。満たされる食後のように、読後の余韻まで味わい深い、優しく安らぐ物語。

 

大竹真奈美(おおたけ・まなみ)
書店員の傍ら、小学校で読み聞かせ、図書ボランティア活動をしています。余生と積読の比率が気がかり。


田島芽瑠の「読メル幸せ」第71回
「推してけ! 推してけ!」第47回 ◆『アルプス席の母』(早見和真・著)