週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.130 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん
『おわりのそこみえ』
図野 象
河出書房新社
買い物依存で性依存。「死にたい」はファッション。
ただの作業として、消費者金融アプリとマッチングアプリを交互に見、ただの現象として、お金がないから借り、いい男にはイイネを押す。
日当7500円のバイトに遅刻しないようタクシーに乗り2000円を払う。そんな生活をくり返す主人公の美帆、25歳。
家は貧乏、不仲な両親。マッチングアプリで出会ったバンドマンのアメは、30歳で定職につかずその日暮らし。小学校時代初めてできた友達の加代子は、金持ちで常に強者と弱者の関係性。高校の同級生の宇津木は筋金入りのストーカーで、7年にも及ぶストーキングは最早プロの域。唯一の友達はベトナム料理屋で働く愛想の悪い美女、ナムちゃん。登場人物は皆、常識的とは言えないちょっと社会から外れたような人ばかり。
その場しのぎの生活。ぬるい地獄。そんな日々を奇妙な仲間たちと巡り巡って、人生は人生ゲームじゃ済まされない。ある出来事をきっかけに、ストーリーは思わぬ方向へと展開していく。
終わりの底に見えるもの。
終わりの、そこに見えるもの。
人生の底には何があるのか?
例えば人が飛び降りる時、見下ろすそこには何がある?
生きていると、なんでそんなことをしてしまったのか到底説明もできないような、後先何も考えず動いてしまったこと、あるいはその時すべきことを何ひとつとしてできなかったという経験があったりする。
そんな理解し切れない自分への不信や恐怖心。トラウマのように消えない記憶を解消したいという欲求が胸の内にあって、そのアンテナに触れる作品に、どうしても心惹かれてしまう。
もうひとつこの作品の魅力として、ドライブ感溢れる文体がある。
そこらに転がってる思いが言葉を拾い出し、風に乗って回り出す。それはまるでダンブルウィードを彷彿させる。枯れてちぎれて風に吹かれて、枯れ草が集まりまくって球状になり転がり続けるあの、西部劇で転がってる草。
風に乗ってテンポよく、作中を踊るように回転し続けるダンブルウィード。止まらない勢いでどんどん読ませてくれる。血にまみれてもしがみつく茨の蔓も、溺れる者が必死に掴む藁をも、枯れてちぎれて密集し、悲劇を転がり続けてて草w
それほど重みも感じない。死が軽けりゃ生も軽い。奈落に堕ちてくのにポップ。この感じはクセになる。「ガーン」も「チーン」もなぜだか軽やかで、単調ではない日々だが短調ではない。長調超いい感じにメロディアスなのだ。
あわせて読みたい本
『無敵の犬の夜』
小泉綾子
河出書房新社
勿論こちらの文藝賞受賞作も最高に面白い! 主人公は幼少に指を欠損した地方の少年。地元のワルとつるみ、憧れの先輩が東京のラッパーとトラブルを起こしたことをきっかけに、一人東京へ襲撃に行く。狭まった世界の感覚のまま上京し衝動的に突っ込んでいく無鉄砲さ、後先考えずに突き進む破天荒パワー。思春期の若さと危うさ、葛藤と暴走を生き生きとリアルに描いた青春小説。鼓動が先走るように躍動感たっぷりに読ませてくれます。
おすすめの小学館文庫
『旅ドロップ』
江國香織
小学館文庫
3ページほどの小さな旅を、ふわりと紡ぐ37篇。思い出に立ち寄るようにふと、手紙が届くようにそっと、日常から離れた場所へ降り立ち、ドロップを口の中でころがすように味わう旅のエッセイ。1冊の本、ラジオの空気、旅立てずに重ねた時間も極上の旅のうち。思いを馳せた場所、心が旅した場所で、思考は膨らみ感情は豊かになる。そうやって人生という旅が、形成されては実ってゆく。記憶に滴る珠玉のトリップドロップ本。
大竹真奈美(おおたけ・まなみ)
書店員の傍ら、小学校で読み聞かせ、図書ボランティア活動をしています。余生と積読の比率が気がかり。