ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第128回
「人間には向き不向きがある」
と言いたいが、
向きが存在しない人間はいる。
言うまでもなく催促をされてからこの原稿に向かっているが、言うまでもなく書くことがない。
知人にぬるい面白話をされて「これネタにしていいよ(笑)」と言われて辟易する、という漫画家あるあるが存在するが、私にそんな経験はなく、むしろ書いていいとも言われてない話を勝手に書いて訴訟沙汰になる可能性の方が高い。
もはやどんな面白くない話でもいい、むしろスベりにスベっているほど「こんなつまらない話をされてまいりましたよ」というネタになる、という完全な当たり屋精神で夫に「書くことがないから何か面白い話しして」と即刻引退した方がいいキャバ嬢のような質問をしたところ「外に出れば目新しいことが起きるのではないか」という回答が返ってきた。
童貞の相談に対し「ソープへ行け」と断じた北方謙三みのある渋い答えだ。
むしろこうやって「ぬるいことを言うに決まっている」と舐めてかかった相手に硫酸を浴びせられる方が漫画家あるあるなのかもしれない。
だが、私に「外に出ろ」と言うのは、なめくじに「塩分が足りてないんじゃないか」というぐらいクソバイスであると夫も理解している。
よって「最近面白かったことと言えば、両親が車で衝突事故を起こしたことぐらいだ」とエピを披露してくれた。
その話は私も知っている、そもそも夫の両親ということは私の義両親に当たる人たちの交通事故だ。
だがそれは、義父の運転する車が不注意により縁石と反射板を破壊、他人の所有する塀に激突して義母が肋骨を折る、という聞けば聞くほど笑顔が消えていくマジックのような話だったと記憶している。