採れたて本!【国内ミステリ#23】

採れたて本!【国内ミステリ#23】

 2019年、『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受賞してデビューした方丈貴恵は、『名探偵に甘美なる死を』と『アミュレット・ホテル』が2年連続で本格ミステリ大賞候補になるなど、緻密な謎解きを特色とする作風で活躍を繰り広げている。最新長篇『少女には向かない完全犯罪』も、そんな著者の作風が顕著に出た本格ミステリである。

 主人公の黒羽烏由宇は、「完全犯罪請負人」を自称する男。法では裁けない犯罪者を罠にはめるのが彼の仕事だ。だがある日、依頼人に会おうとした矢先、何者かにビルの屋上から突き落とされて銅像に串刺しになってしまった。そして黒羽は、自分が幽霊のような存在になったことに気づく。まだ死んではいないが、生身の体には戻れないらしい。律儀にも、幽霊になっても依頼人のことが気になって待ち合わせ場所に赴いた彼は、三井音葉という少女と出会う。

 音葉の両親は、他ならぬ黒羽が会う予定だった依頼人であり、黒羽が突き落とされたのと同じ日に殺害されたという。音葉は両親を殺した犯人を見つけ出して復讐することを望んでおり、そのための協力を黒羽に迫る。

 主人公が幽霊だという点では、本書は著者のデビュー作に始まる「竜泉家の一族」シリーズに通じる特殊設定ミステリ路線だが、一方で、完全犯罪請負人だの綽名で呼ばれるような連続殺人鬼だのが実在する作中世界という点では、犯罪者御用達ホテルという現実離れした設定の『アミュレット・ホテル』の路線にも近い。まだ小学六年生の少女と、あと7日で消滅する運命の幽霊。限りなく無力なこのコンビが、いかにして犯人を追いつめられるのか。犯人が知略に長け、なおかつ恐るべき実行力の持ち主であることは中盤で明らかになる。尋常ならざる強敵が相手だからこそ、主人公たちが味わうスリルが盛り上がるのだ。

 そして終盤に待つのは、目まぐるしい多重解決の波状攻撃である。あまりにもどんでん返しが続くので辻褄が合っているかどうか不安になるほどだが、多重解決であることの必然性も用意されており、抜かりはない。読者の知性と感情をとことん揺さぶる力作だ。

少女には向かない完全犯罪

『少女には向かない完全犯罪』
方丈貴恵
講談社

評者=千街晶之 

福徳秀介『耳たぷ』
井上荒野『だめになった僕』