採れたて本!【国内ミステリ#18】

採れたて本!【国内ミステリ#18】

 2021年に日本推理作家協会賞を受賞した坂上泉と結城真一郎は、それぞれ1990年生まれと1991年生まれである。他にも白井智之、五十嵐律人、青崎有吾、新川帆立、伊吹亜門、辻堂ゆめ、阿津川辰海など、今や1990年代生まれの作家がミステリ界を牽引している感がある。では、この世代の中で最若手と言えるのは誰かというと、『此の世の果ての殺人』の荒木あかねと『ルームメイトと謎解きを』の楠谷佑(ともに1998年生まれ)、そして今回紹介する『ぼくらは回収しない』の真門浩平(1999年生まれ)だろうか。

 著者は2022年に短篇「ルナティック・レトリーバー」で第19回ミステリーズ!新人賞を受賞、また翌年には「麻坂家の双子喧嘩」で「カッパ・ツー」第3期に入選している。著書としては「麻坂家の双子喧嘩」を改題した『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』が1冊目で、本書は2冊目にあたる。

 本書は5つの短篇から成っているが、まず巻頭の「街頭インタビュー」では、鋭い観察眼を持つ中学生の「ぼく」が、同級生の藤原さんからSNSでの炎上を鎮めてほしいと依頼される。街頭インタビュー映像に出たことが原因で炎上しているのは藤原さんの姉だというのだが……。ある瞬間にギョッとするような真実を突きつけられるビターな1篇で、本書の中でも特にお薦めしたい。

 2篇目の「カエル殺し」はお笑いの世界を舞台とする物語で、一見ミステリらしからぬ始まり方をするのだが、実は芸人の転落死をめぐるフーダニットだ。他にも、亡くなった祖父の家から消えた本の謎を解く「追想の家」、高校のサッカー部の部室を荒らしたのは誰かを絞り込む「速水士郎を追いかけて」と、それぞれ印象の異なる作品が続く。最後を飾るのはミステリーズ!新人賞受賞作の「ルナティック・レトリーバー」。数十年に一度の日食の日に、大学の寮で密室状態の死亡事件が起きる……という不可能犯罪ものである。

 やや麻耶雄嵩の作風を意識しすぎた印象の『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』よりも、「日常の謎」あり、不可能犯罪あり……とバラエティに富みつつも青春ミステリの要素が濃い本書のほうが、より著者の個性と美点が出ていると言えそうだ。犯人を絞り込むロジックもさることながら、「カエル殺し」や「ルナティック・レトリーバー」など、動機の意外性が特に強烈である。それが奇を衒った印象に陥らないのは、事件をめぐる登場人物たちの心理の揺らぎがしっかりと描かれているからだ。

ぼくらは回収しない

『ぼくらは回収しない』
真門浩平
東京創元社

評者=千街晶之 

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