◎編集者コラム◎ 『往復書簡集 はからずも人生論』佐藤愛子 小島慶子
◎編集者コラム◎
『往復書簡集 はからずも人生論』佐藤愛子 小島慶子
2020年に単行本として発売してから5年。愛子センセイは101歳になり、小島さんは52歳になり、そして私は白髪と体重が増えました。いろいろあった5年を経て、ガラッとタイトルを変え、雰囲気を変え、新たに「文庫化にあたっての後日談」を加えて皆さんにお届けできることは、何より「めでたい」と寿いでおります。
本書は、年の差50歳のおふたりが交わした往復書簡集です。佐藤さんは当時、『九十歳。何がめでたい』がバカ売れして、相次ぐ取材依頼に応えているうちにヘトヘトの果てになり……という時期。一方の小島さんは家族の暮らすオーストラリアと仕事をする日本を行き来するストレス過多の生活をしていました。小島さんが佐藤さんに、夫婦のこと、人生のこと、仕事のこと、世の中のことについての悩みを赤裸々に吐露し、佐藤さんもまた、それに答える形で硬軟織り交ぜ筆を執ります。
おふたりは文芸誌の対談で初めて会い、年の離れた気の合う友人として、文筆の世界で生きる先輩・後輩として、手紙を交わすように。それを知った私が、ぜひそれを誌面(「女性セブン」)で続けてもらえませんか、とお願いしたのが事の始まりでした(と、小島さんが「後日談」で書いてくださっています)。振り返れば、なんという無茶なお願いをしたのだろうと、自分の紅顔ぶりに恥じ入るばかりです。5年前にも、この本全体に横溢する濃密な空気は、心から信頼する個人宛に書く「私信」だけが持っているものだとは思っていました。しかし、その認識は間違っていたと今は感じます。改めてゲラを読む中で、この往復書簡は佐藤さんと小島さんという文筆の世界で生きると腹をくくったおふたりの組み合せ以外では有り得なかった、書き得なかった内容だと気づいたのです。
あるとき、自分の近況を佐藤さんにご報告したら、佐藤さんはひと言、「あなたは仕事に救われたのね」とおっしゃいました。そして、佐藤さんご自身にもそうした時期があったと教えてくださいました。その言葉に私はどれほど救われたか。ままならない人生ですが、誰かがどこかで自分を見ていてくれて、分かってくれていると思えることは、どれほど心強く、有り難く、幸せなことでしょう(批判するのでも、ただ認めるのでもない、佐藤さんの受け止める懐の深さ!)。
そして、はたと気づいたのです。このおふたりは、自分の人生を洗いざらい読者に曝け出して、そのことを広く深く教えてくださったのだと。この欄を借りて、改めて佐藤愛子さん、小島慶子さんにお礼申し上げます。ありがとうございました。
だからこそ、佐藤さんが本書の中で書いた言葉を借りれば、「心して讀め」と平身低頭お伝えしたい気持ちになるのです。この本がおひとりでも多くの人に届きますように。そして、できればいくらかでも気持ちが明るくなって、〝雲ひとつない、ルンルン青い空〟になりますように。
最後に、単行本が発売されたときに、女優の小林聡美さんが「サンデー毎日」の読書エッセイ連載でこの本について書いて下さいました。とてもとても嬉しい出来事だったのですが、それが今、『わたしの、本のある日々』(毎日文庫)に収録され、発売されていますので、少しだけ引用します(どのエッセイもとても面白いので、ぜひお手にとってお読みください)。
ひりひりするような正直な小島さんの心情の吐露を、ご自身もかつて夫の借金返済で苦労した経験のある佐藤さんはさすがの貫禄で受け止め、時に諭す。自身を「仏様の掌で遊ぶ猿のよう」と小島さんがあとがきに書かれているように、五十年先を生きてきた佐藤さんは、深刻な小島さんの心の叫びを、誠実に、痛快に、一掃する。
──『往復書簡集 はからずも人生論』担当編集者より