週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.183 明林堂書店浮之城店 大塚亮一さん
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今回紹介したい作品は、村山早紀さんの新作『風の港 再会の空』だ。
物語に触れる前に。皆さんは本のあとがきを気にしたことがあるだろうか?
その名の通り、この本を最後まで読んでくれた読者と制作に携わってくれた全ての人に、著者がメッセージを伝える場所だ。
村山早紀さんは、全作品に自身であとがきを書いている。私は村山早紀さんのこのあとがきが好きである。
『風の港 再会の空』をこれから読む人は、できたら本編を読み終えてからあとがきに触れてほしいとだけ言っておきたい。
さて、今作は2022年に刊行された『風の港』の続編だ。
物語の舞台は空港。
そこで交差する人々の出会いや再会、そして奇跡が5つの連作短編として描かれる。
ここでタイトルに注目していただきたい。
『風の港』となっているが、空港を「風」としたところに著者の意図した思いが感じられるからだ。その理由は後半に述べようと思う。
どの話も心温まるものだが、特に最終話が個人的には好きだ。
主人公は社会人になって数年しかたってない司。
市役所勤務で滅多に出張はないのだが、この日は関東の空港に降り立っていた。
司は遺伝というか家族から受け継いできた頭痛持ちで、慣れない空の旅で今回もその症状が出てしまっていた。
しかも今日に限って飛行機の到着が遅れ、時間に余裕もない状況だった。
空港内の診療所へ行く時間はなかったが、コーヒーを飲むぐらいはと思い地下にあるカフェへ移動していると、どこからともなくピアノの音が聴こえてきた。
流れてくる曲に耳を傾けると、司が子供の頃に好きだった「夢路より」で、ピアノの奏者を見ると、弾いているのは白髪のお婆さんだった。
この後、物語は思わぬ方向へ動き出す。
空港という場所は日々、人が旅立ったり戻ってきたりとさまざまな行き交いが起きている。
そして、その瞬間その場所でしか出会わないこともある。
本書を読んでいると、そんな一瞬一瞬の人との繫がりや縁を感じる。特にサブタイトルにある「再会」という言葉が各章のキーワードになっている。
そしてなぜタイトルを『空の港』とせずに『風の港』としたのか・・・。
そう、空港での出会いで、いい風が吹いてくるからなのではと。
あらためて人と人の出会いの大切さや素晴らしさに気づかせてくれる優しい物語だ。
補足だが、この章の主人公の話し言葉の方言部分に監修として携わらせていただいたので、その辺りも楽しんでいただけると幸いだ。
あわせて読みたい本
自立するって、自分らしく生きていくって、幸せってどういうことだろう? そんな問いを投げかけてくれるのが本書『マイ・ディア・キッチン』だ。主人公の葉はモラハラ夫と口論になり、ある牛丼店に飛び込むのだが夫がそれを追いかけてくるという修羅場が冒頭で描かれる。そこで料理店のオーナー天堂に助けられ、家には帰らずに天堂のところでお世話になることになる。一人の女性が料理を通して自分自身と向き合い、少しずつ前を向いて進んでいく姿に心打たれる一冊だ。
大塚亮一(おおつか・りょういち)
地方書店でも作家さんが行ってみたい!と思ってもらえることを目標に日々奮闘中。そしてお客様にもあの書店に行くとわくわくする!と思ってもらえるようなお店になることが最終目標の宮崎県の書店員。