◎編集者コラム◎ 『私はスカーレット Ⅲ』林 真理子
◎編集者コラム◎
『私はスカーレット Ⅲ』林 真理子
お待たせ致しました! 名作『風と共に去りぬ』を林真理子さんがヒロインの一人称で大胆に超訳した小説『私はスカーレット Ⅲ』をお届けします。
「ドラマティック」とはこういうことを言うのだ、というくらい、息つく暇もない展開が魅力の本作。ヒロイン・スカーレットはパーティーやドレス、男の子にモテることが大好きな16歳の女子。「Ⅰ」の終盤で南北戦争が始まり、それとともに初恋のアシュレに振られ、ヤケクソ結婚→夫の死→出産→故郷タラから大都会アトランタへ……と、彼女のジェットコースター人生が一気に加速します。
「Ⅱ」では大都会の華やかな生活への期待もむなしく、喪中の生活にストレスマックス状態のスカーレットですが、パーティーでは周りの顰蹙をよそにレット・バトラーと喪服のままダンスを踊るなど、まだまだパリピっぽさが抜けません。
ところがこの「Ⅲ」では戦争は激化、南軍は追い詰められ、スカーレットもギリギリの極限状態へと追い詰められます。ここであのわがまま女子のスカーレットがどう変化していくのか。これが「Ⅲ」の大きな読みどころです。
もうひとつ、「Ⅲ」の読みどころを上げるなら、映画でも有名な、炎上するアトランタからの脱出と、バトラーの愛の告白でしょうか。本作の帯には、連載の挿絵を担当する加藤木麻莉さんによるこの名場面を掲載しています(ちなみに「Ⅰ」「Ⅱ」の帯も衣替えし、映画のオマージュイラストを掲載)が、そのドラマティックなことといったら……!
「スカーレット、愛してるよ」「オレたちは似た者同士だ。どっちも裏切り者で、自分勝手な悪党だ。自分の身が安全なら、世界が滅んだっていいと思ってる」
こんな愛の告白は、昨今の小説や映画ではなかなかお目にかかれないのではないでしょうか。これこそ、古典名作の魅力。ぜひ、皆さまにも堪能していただきたいです。
そして古典名作ゆえというべきか、BLMムーブメントの中、今年6月には映画の配信停止(後に再開)が大きな話題になりました。以前からこの映画や原作の人種差別的な描写については指摘があり、一端配信を停止、解説をつけての再開は、映画製作当時と現代の人権意識とのギャップを鑑みての対応でした。それは担当者の私にとっても、もう一度この作品を発表する意義を改めて考える機会となりました。
小説の舞台となった南北戦争の時代と、原作が書かれた1930年代。二つの時代を内包するこの物語には、現代の視点では控えるべき表現や描写も見られます。もちろん、差別を受ける人、傷ついている人の視点で考えることが最も重要。けれども、過去の人種差別に蓋をして無かったことにしてしまうのは、負の歴史を否定することになりかねない。現代の読者の方々が『私はスカーレット』を読むことで、二つの時代の社会情勢や空気を感じ、人種差別について考えるきっかけとなってくれれば、と願っています。
林さんもこの件を受け、週刊誌の連載エッセイでこう綴っています。
「私の『風と共に去りぬ』は、今読んでも男女のトゲはない。あるのは人種差別のトゲだけ。何とかうまく処理して、多くの人に読んでもらいものだ。なぜって本当に面白い小説だから」
ぜひ新しい帯とともにお愉しみください。
──『私はスカーレット Ⅲ』担当者より