◎編集者コラム◎ 『私はスカーレット Ⅰ』林 真理子

 ◎編集者コラム◎

『私はスカーレット Ⅰ』林 真理子


私はスカーレット

 林真理子さんに『風と共に去りぬ』の新訳をお願いしたのは5年ほど前。著者のマーガレット・ミッチェルが亡くなってから60年が過ぎ、パブリックドメインとなったことがきっかけでした。

 映画も小説も不朽の名作という位置づけですが、まわりに聞いてみると意外や意外、読んでいないという人が多く、でも文庫にして全5~6巻となる超大作だけに尻込みする気持ちもわかる……と思ったりしつつ、「だけどこんな面白いのだから、もっと気軽に読んでもらえないかな」と考えている中で、ふと「林さんの訳なら絶対にイケる!」と思ったのでした。以前からエッセイなどで『風共』愛を綴り、ミッチェルの伝記の翻訳も手がけている林さんなら、この小説の魅力を余すところなく描きつつ、今の読者にフィットした作品に甦らせてくれるに違いない!と確信したのです。

 早速依頼をしてみると、即、快諾。舞い上がりました。舞い上がったものの、そこから新聞連載や大河ドラマ原作執筆など林さんの多忙が極まり、一時は企画ボツの危機にも……(本書まえがきでは「のらりくらりと、私があまりに何もしないので」とありましたが、いえいえ、本当にお忙しかったのですよね!!)。でも、これは林さんでなければ意味がない、と待つことさらに数年。

 いよいよ「書きます!タイトルは『私はスカーレット』。翻訳ではなく超訳、スカーレットの一人称小説にします!」と宣言され、間もなく「きらら」2018年6月号の第1回原稿を受けとった時の感激は、1年以上経ったいまでも忘れられません。「待って良かった。林さんを信じて良かった!」と心の底から思いました。

 何に一番感激したか。原作を読んだ人、映画を見た人なら同意してくれるかもしれませんが、私にとってのスカーレット・オハラ像は「男を手玉に取ってたくましく生き抜く、性格の悪い魔性の女」でした。ところが、林版スカーレットは私のその「思い込み」を大きく覆したのです!読んで最初に思ったのは「スカーレット、可愛すぎるやん……」。

 まえがきにもあるように、スカーレットって物語冒頭ではまだ16歳(終わりでもまだ29歳)という若さ、今でいう女子高生なんですよ!!(←力説)なんでこんなに萌えてしまうのだろうと戸惑いながら、胸をキュンキュン(死語?)させながら、それはもう、引き込まれてしまいました。そして気づきました。「こういう女の子っているよね」と。魔性ではなく、自分の欲望にひたすらまっすぐなだけ。計算高いようで、実際は大勘違いばかりだし、林さんが言うように、「思い切り客観性のない女の子」で、見方によってはかなりイタい人ですらある。だけれども、いやだからこそ、共感してしまうのです。十代の未熟さで、情熱のままに突っ走るスカーレットのなんてまぶしいこと、羨ましいこと。それは、一人称小説でなければ味わえない醍醐味なのです。

 林版スカーレットの魅力については、語り出すと止まらなくなってしまうのでこの辺で。とにかく最高に面白い彼女の波瀾万丈の人生の幕開け、ぜひその目で確かめてみてください。

──『私はスカーレット Ⅰ』担当者より
 
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