◎編集者コラム◎ 『雨利終活写真館』芦沢央
◎編集者コラム◎
『雨利終活写真館』芦沢央

『夜の道標』で第76回日本推理作家協会賞を受賞し、『噓と隣人』が第173回直木賞にノミネートされるなど注目を集めるミステリ作家の芦沢央さん。『雨利終活写真館』はそんな俊英が贈る、〝希望と再生のミステリ〟です。あらすじはこちら。
巣鴨の路地裏にたたずむ、遺影専門の写真館《雨利写真館》。先月急逝した祖母が撮影されたときの話を聞くために、黒子ハナは写真館を訪れる。奇妙な遺言状を作っていた祖母の真意を知るための、手がかりを求めてのことだった。カメラマンの雨利たちの協力で、ハナは祖母の最期の望みに気づく――。
写真館で働き始めたハナはその後、心にわだかまりを抱えた人たちと出会い、様々な謎と向き合いながら、自分の人生を見つめ直していく。
祖母の遺した不可解な遺言状、家族の心が離れるきっかけとなった不審な転落事故、謎のメモが残された古い妊婦の写真。そして、それらの謎に向き合うハナもまた、父の死にまつわる、癒えない傷を抱えています。
二度と直接話すことのできない人たちが、解けることのない謎を遺していたら――その死に後悔を抱える人たちはみな、その謎に囚われてしまうでしょう。自分の身にそんなことが起きたらと鮮明に想像できてしまうからこそ、ハナたちの協力でその謎が解かれ、いまを生きる人たちが再び歩き出す姿を見ると、目頭が熱くなってしまいます。
本書のあとがきで、芦沢さんは小説の執筆動機を下記のように語っています。
私が小説を書くときに核になるものは、デビュー前から一貫して「自分が怖いと感じること」だ。怖いからこそ、考え続けざるをえず、何がそんなに怖いのかを探るために小説を書いてしまう。本作自体も「わだかまりを残す死」というものへの恐れから取り組んだ(中略)。
私はきっと、これからも次々に現れる新しい怖さについて考えながら、小説を書き続けていくのだろう。
「怖さ」を探って物語を紡ぐ芦沢さんの作品には、ダークな読み心地へ振れるものも、明るいゴールへたどり着くものもありますが、本作は後者です。
「わだかまりを残す死」とどう折り合いをつけるのか。もがき苦しみ、やがて前を向くハナの姿を通じて、この物語に救われる読者がきっといると思います。ぜひ多くの人に手に取ってもらいたいです。
──『雨利終活写真館』担当者より