大ヒット記念!『探偵小石は恋しない』森バジル&書店員座談会(前編)


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益田穂乃実さん(やず本や)
峯多美子さん(六本松蔦屋書店)
宗岡敦子さん(紀伊國屋書店福岡本店)
森バジルさん
編集部
最後の1行まで続く驚き
──「絶対に事前情報なしでお読みください」と大々的に打ち出し、ネタバレを厳禁としてきた『探偵小石は恋しない』ですが、本日はネタバレOKで座談会をしようという試みです。ネタバレを気にしないご感想もいただきたいですし、森さんに聞きたいことなどをざっくばらんにお話しいただきたいと思います。座談会を記事にまとめる際、未読の方に向けては、ネタバレになりそうな箇所を伏せ字にするなどして公開させていただきます。それでは最初に、書店員の皆様から率直なご感想をお願いします。
宗岡
謎解きの場面でぶわぁっと鳥肌が立ちました。小説だからこそできる仕掛けをすごく感じましたし、自分にいかに強く●●●●がかかっているかということをものすごく感じましたね。見事に騙されました。すごかったです。
伊賀
ホントですよね。まず、びっくりしたというのがシンプルな感想です。作中、何度も驚かされたんですけど、エンディング、それも最後の1行までそれが続くとは思いませんでした。
びっくり以外ではセリフの心地良さ。プロローグからさっそくテンポがいい会話が始まって、それも最後まで続きました。文字を追う目と、脳内で会話に変換するスピードがまったくズレなくて、耳に直接聞こえてくるようでした。
あとは、宗岡さんもおっしゃっていたように、私も無意識のうちに●●●を持って読んでいたなあ、と思いましたね。謎解きの場面で、それまで自分の中でこうだと思っていたことがひっくり返る瞬間が爽快でした。最後の最後まで飽きることなく夢中で読みました。
峯
無駄がないんですよね。今まで読んだ森さんの作品は全部そうなんですけど、全部が伏線、すべてが結末に向かってつながっている。ちょっとした会話の一言も結末に関係してくる。よく練られているというか、読み逃せないんですよ。単純にもう、とにかく面白くて、エンタメ小説として完成されてるなって思いました。
私は森さんが松本清張賞を受賞した『ノウイットオール あなただけが知っている』がすごく好きで、『探偵小石は恋しない』にも期待していたんです。読んでみたらやっぱり好きになりました。素晴らしい作品だと思います。
益田
『魍魎の匣』とか『殺しの双曲線』とか実在するミステリがたくさん出てきますけど、『探偵小石は恋しない』自体が、ミステリの面白さが1冊に全部詰まってる本だなって思いました。
大きな仕掛けがあるということは事前に聞いていたので、がんばって考察するぞと思って読み始めたんですけど、面白すぎて、気づいたら考察する暇もなく読み終わっていました。それくらい続きが気になって、ページをめくる手が止められなかったですね。「やられた!」って、「だからミステリって面白いんだ!」っていう気持ちに心からなりました。
──森さん、みなさんの感想をお聞きになっていかがですか。
森
いやあ、照れますね。こういう場は初めてなのですが、自分はすごく幸せ者だなって思います。本当に嬉しいです。ありがとうございます。
作者の自分は真相を全部知ったうえで書いているので、初めて読んだ方にはどういう読まれ方をするんだろうとか、どういう読後感になるんだろうとか考えると不安だったんです。
ネタバレ厳禁では語れない様々な仕掛け
伊賀
『探偵小石は恋しない』はウェブ連載をされていたそうですが、少しずつ考えながら書き進められたんですか。
森
大まかな構成は最初に考えてありました。第一章、第二章、第三章でそれぞれ小石たちへの調査の依頼があって、みたいな流れは考えていた通りになりましたね。
ただ、読者がどのあたりでどういう気づき方をするのかなとか、●●と●●が●●な設定とか、●●の●●とか、誰が●●でどんな●●でとか、あまり細かいところは決めずに書いていきました。
峯・伊賀
えー!
森
大御所の作家さんが「連載しているうちに物語がどうなるかを思いつく」みたいなことを言っているのをインタビュー記事で読んでいたので、そうなのかなと思ってやってみたら、全然思いつかなくて(笑)。話が違うなと思ったんですけど、大まかにこういうことをやろうというのはあったのでなんとか無事に連載終了まで書けました。そこから単行本にするためにかなり直しましたけど。
峯
最初に細かいところまで決めていなかったとは思えないくらい緻密ですよね。
宗岡
『探偵小石は恋しない』は当店のスタッフも何名もすでに夢中で読んでいます。もう本当に最後、●●が●●だとは。しかも●●が●●で、そのうえ●●●が間違っていて、さらには●●が●●だった、という驚きの連続でした。事件の謎が解かれるだけでなく、●●●●がこんなふうにつながっていくのかというのもすごい。あれは最初から考えていらっしゃったんですか。
森
全部最初から考えていたかはちょっと覚えていないんですけど、トリックの部分はあらかじめ考えていました。あと、●●が●●で、●●が実は●●だとかは考えてありましたね。
──この一連の会話は伏せ字だらけになるなと思いました。
(一同笑)
益田
『探偵小石は恋しない』はキャラクターがみんな魅力的ですよね。森さんが書いていて楽しかったキャラとか、登場人物の中に推しはいらっしゃったりしますか。
森
この人が一番みたいなのはないんですけど、やっぱりメインの二人。小石と蓮杖を書いているのは楽しかったですね。キャラクターがというよりも、その二人の関係が一番好きでした。
雛未や片矢は序盤に出番が少ないので、最初から読者に印象づけるにはどうすればいいかということはかなり考えましたね。そういう意味での思い入れはあります。
益田
雛未と片矢、二人とも好きでした。
峯
雛未ちゃん、素敵でした。みんないい感じです。
森
ありがとうございます。
座談会は後編に続きます。
小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。
森 バジル(もり・ばじる)
1992年宮崎県生まれ。九州大学卒業。2018年、第23回スニーカー大賞《秋》の優秀賞を受賞。23年、『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞し、単行本デビュー。他の著作に『なんで死体がスタジオに!?』がある。





