大ヒット記念!『探偵小石は恋しない』森バジル&書店員座談会(後編)


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益田穂乃実さん(やず本や)
峯多美子さん(六本松蔦屋書店)
宗岡敦子さん(紀伊國屋書店福岡本店)
森バジルさん
編集部
西新、天神地下街。リアルな福岡を舞台に
──『探偵小石は恋しない』の舞台は福岡です。福岡のみなさんに集まっていただいているので、ご当地的に盛り上がる場面があればお教えいただけないでしょうか。
益田
私は大学時代に、小石探偵事務所がある市営地下鉄西新駅の近くの書店でアルバイトしていたので、なじみ深すぎてドキドキしながら読んでました。出てくるお店も知っていたりとか。
森
ありがとうございます。西新商店街も出せばよかったなって後になって思ったんですよ。
益田
出ていたら嬉しかったです。
森
そもそも連載の時は架空の地名にしていたんです。でも、浮気調査の尾行の描写を書いていて、この角を曲がって、みたいなことを架空の土地でやるのが気持ち悪いなと思ったんです。じゃあ、もう福岡にしようと思って、単行本にする時に福岡に書き直しました。
小説を読んでいても、東京が舞台だと、例えば東西線のどこどこで~みたいな描写が出てきたりするけど、ピンと来ないんですよね。いつか福岡が舞台の作品を書けたら楽しいだろうなっていうのはありました。
峯
天神地下街(てんちか)とか出てきますものね。福岡県民は福岡大好きですから、福岡が舞台なら読んでみたいと思う人は多いでしょうね。
二度読み推奨。隠された伏線の数々
──『探偵小石は恋しない』は読者が騙されるポイントがたくさんある作品だと思います。全部の謎が解けた時に、これが一番やられたなと感じたのはどこでしたか。
益田
私は●●●●●●ですね。なんで●●●●●●なんだろうとずっと引っかかっていたので、その理由がわかったときの驚きが一番印象に残っています。
伊賀
私は、272ページの傍点が振られたセリフのところですね。このセリフを読んだ時に「えっ!」って。もう、まんまと──
峯
騙されましたね。わかる。宗岡さんは?
宗岡
一番って難しいな。もう全部ですよね。最後の謎解きで、世界がひっくり返ったというか。その真相を想像できていなかった自分がいて、それがわかった時の衝撃がすごかった。峯さんは?
峯
どこかな……わかった。245ページの小石のセリフですね。
森
第四章の最後ですね。
峯
そうそうそう。そんなことまったく思っていなかったので驚いて。でも、その後に、そういうびっくりが本当に何回もあるからすごいなと思いました。
──伏線がすごくたくさんあるんですよね。担当編集の僕は原稿段階から何周も読んでいるのに、SNSでの感想のポストを見て「あ、それ気づいてなかった!」みたいなことがありました。「●●●は●●●を●●●●」という伏線なんですけど。
森
実はその伏線、僕も全然意識していなかったんですよね(笑)。読者は違和感があったわけですが、僕は真相を知って書いているので自然にそう書いただけなんです。でもよく考えたらそうですよね。たしかに●●●は●●●を●●●●。
益田
たしかに。
峯
すごい。
時間をかけて改稿できたことがプラスに
峯
森さんに質問していいですか。コンスタントに作品を出されていますよね。このクオリティを保ちつつ書き続けるって大変だと思うんですけど。
森
『探偵小石は恋しない』はウェブ上で連載させていただいたんですけど、その連載中も子どもが風邪をひいたり入院したりして、毎回のように締め切りを延ばしてもらってしまいました。なので連載中は大変でしたね。連載が終わってからは、書籍化に向けての改稿を何度かしたのですが、改稿するたびに完成度が上がったなと感じていました。連載開始から刊行まで時間をかけられたことは、結果的によかったなと思っています。
でも、連載している途中で二人目が生まれて、それ以降は本当に時間がなくなったので、どうしようと今、思っているんですけど(笑)。
峯
どうしよう(笑)。
森
まあ、なんとか時間を捻出して書こうと思っています。
峯
ミステリ以外も書かれていますか。
森
「小説新潮」で不定期で掲載してもらってる作品はミステリ的な仕掛けがない、青春小説ですね。就活生の主人公がある人物との出会いをきっかけに演劇の道へと入っていく連作短編です。
峯
青春小説ですか。なるほど。森さんの『ノウイットオール』もいろんなジャンルの小説が集まった独特な作品でしたよね。素晴らしい。楽しみにしています。
宗岡
『探偵小石は恋しない』はキャラクターがとっても魅力的なんですけども、モデルにした方はいらっしゃるんでしょうか。
森
モデルはいないですね。前作の『なんで死体がスタジオに!?』はテレビのプロデューサーが主人公だったので、モデルとまではいかないですけど、なんとなくイメージしていた芸能人がいました。でも今回は特にはいなくて、ミステリ小説の中の探偵に憧れてる探偵はどんな人なんだろうとか、その相棒はどんな感じなんだろうと考えて、だんだんできていった感じですね。
宗岡
ありがとうございます。
気になる続編
──『探偵小石は恋しない』の続編があるとしたら、どういう作品がいいとか、こういう場面が読みたいというリクエストはありますか。
益田
小石が実際に密室殺人を解決するとか、ガチガチのミステリも読んでみたいです。でも、人が死なないのがこの作品のいいところだなとも思うので、難しいですけど。
宗岡
私は今回を上回る読者の「●●●●●●●」をぜひ期待したいですね。
伊賀
ラストシーンのあとがどうなるのかすごく興味がありますね。あとは福岡の大きい施設を爆破してほしいです。
(一同笑)
そして、華々しく謎を解いてほしい。
峯
私はアクションシーンが出てきたらそれも面白そうだなと思いますね。もう続編が出ることは決まってるんですか。
森
僕のがんばり次第ですね。
(一同笑)
一同
楽しみにしています!
小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。
森 バジル(もり・ばじる)
1992年宮崎県生まれ。九州大学卒業。2018年、第23回スニーカー大賞《秋》の優秀賞を受賞。23年、『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞し、単行本デビュー。他の著作に『なんで死体がスタジオに!?』がある。






