『ミステリ作家、母になる』刊行記念 辻堂ゆめ×子育てインフルエンサー・木下ゆーきスペシャル対談

『ミステリ作家、母になる』辻堂ゆめ×木下ゆーき スペシャル対談

トリカゴ』で大藪春彦賞受賞、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞ノミネートなど、業界内外から高い評価を受けている辻堂ゆめさんは、東大出身のインテリ作家でもあり、さらに3児の母でもあります。そんな辻堂さんが、このたび初となるエッセイ集を刊行。テーマは「子育て」です。SNS総フォロワー数200万人以上と大人気の子育てインフルエンサー・木下ゆーきさんをお招きして、スペシャル対談が実現。著作に込める想いや「子育てあるある」について、お話しいただきました。

 取材・文=長南真理恵 撮影=田中麻以
※Webメディア「HugKum」掲載の対談から一部抜粋してお届けします


「子育てに悩み苦しんでる人に、くすっと笑えるコンテンツを」(木下さん)

――おふたりともエッセイや子育ての動画で子どもにまつわる活動をされています。それぞれどのような想いで活動されていますか?

木下ゆーきさん(以下、木下)
 僕がインフルエンサーとして活動することになったのは、2018年12月に当時のXで「おむつ替え動画」がバズったのがきっかけですが、実はその年の頭から、子育てに関する笑いを交えた情報発信を始めていました。そのきっかけは当時愛知県豊田市で起きた虐待事件です。

 そのとき僕は、シングルで子どもを育てるため、お笑い芸人を辞めて実家がある名古屋に戻り、IT系企業の会社員をやっていました。たまたま見た新着ニュースで、生後11ヶ月の男の子を床に叩きつけて死亡させた母親逮捕って。

 なんてひどいことをするんだろうと思っていたら続報で、亡くなった赤ちゃんは三つ子だったと。お母さんは1日24回ミルクをあげて、連続して1時間も眠れない日が続いてたそうです。それを知って自分も「子どもが三つ子だったら同じことしちゃってたかも」って。

 そう思うくらい、僕も子育てに悩み苦しんでいた時期があったんですね。息子が寝てくれなくて真っ暗な部屋で2時間抱いて歩き続け、やっとの思いで寝かしつけたあとで開いたSNS。そこでは、未婚の友人が居酒屋で肩を組んでビールジョッキを持っている……それを見て孤独感に苛まれた夜を思い出して。同じように子育てに悩み苦しんでる人がSNSを開いたときに、くすっと笑えるコンテンツを発信できないかなと思ったんです。

辻堂ゆめさん(以下、辻堂)
 本当に、救われている人が多いと思います。

木下
 そうだとうれしいですね。実際にコメントで「子どもを産んでからいっぱいいっぱいで笑えてなかったんですが、木下さんの動画で久しぶりに声を出して笑いました」みたいなのを見ると、自分が目指してたのが形になっているのかなと。

辻堂
 子育てっていろんなタスクが発生するので、隙間時間で笑えるのがいいですよね。テレビ番組を見て笑おうと思うとまとまった時間が必要で、その間に子どもが泣いちゃったりしますけど、SNSの短い動画はすぐに見られます。

木下
 そうですね。辻堂さんのエッセイについてもお話を聞きたいです。辻堂さんは東大出身なんですよね?

辻堂
 そうです。でも法学部だったので、小説は中学生からの趣味でした。大学4年生のときにデビューしているのですが、文芸系サークルにも入ってなかったので、周りからは驚かれましたね。

 今回の子育てエッセイは、子どもが生まれた後ぐらいのタイミングでお話をいただきました。その直前、つまり子どもを産む前に『十の輪をくぐる』という子育てを主題にすえた小説を書いたんです。なんでその話を書いたかと言うと、ある男性編集者さんに「女性作家は結婚して子どもが生まれると、みんな子育ての話を書きがちで残念だ」と言われたんです。個性がある女性作家もみんな同じような方向に行ってしまい残念だ…という意味合いだったと思うのですが、当時独身だった私はひねくれた考えになって「じゃあ、子育てのことを知らない独身のうちに子育ての話を書いてやる」って。自分の経験に基づかない何の色もついてないときに、子育てのことを一生懸命調べて作品を書こうと思って。

辻堂ゆめさん

 そのあとに子どもが生まれて、子育てエッセイの依頼があったので、これは私なりの答え合わせになるかもしれないなと日常を綴り始めました。

木下
 子どもが生まれてどうでしたか?

辻堂
 本が完成する前の修正作業のときには生まれていて、「子どもが20分でも30分でもテレビに集中していられるうちに」みたいな描写に「いや、子どもは20分も30分も集中しない! 5分でも10分でもだ!」って思って赤字を入れて。答え合わせになりました。
  

「専門家ではないので、ありのままの姿を書いていく」(辻堂さん)

――3人育児の先輩でもある木下さんに、辻堂さんから聞きたいことはありますか?

辻堂
 うちの年少の息子が、木下さんの絵本『はぶらしロケット』にハマっていて、寝る前に毎晩読んでいるんです。うちでは仕上げ磨きしようとすると口を開けてくれない状況が続いて、私は「虫歯になっちゃうよ」とか「歯が痛くなっても知らないよ」みたいな脅しで開けさせていましたが、絵本の通りやっていたら喜んで口を開けてくれるんです。ああいうのってどうやったら思いつくのかなと。面白がらせながら目的を実現する、のような。

木下
 僕も全然磨かしてくれなくて、半ば諦めみたいな感覚でやってみたら、それがたまたまハマったんです。でも毎回家でやるかって言ったら、やってないですよ。自分の心と時間に余裕のある時間しかできないので。この間も仕上げ磨きを嫌がられたので、「わかった、じゃあやらない」って。

木下ゆーきさん

辻堂
 そうなんですか!? ちょっと安心しました。

木下
 おもちゃの片付けのときに運動会の曲を流して「さあ始まりました。全日本~♪」って言うと、子どもが必死に片付けるので、その動画もアップしたことがあるんですが、1年に1回~2回やるかやらないかで、たいていは「出てるおもちゃ全部捨てるよ」って言ってます。

 専門家の人は「脅しの言葉を使ってはダメ。大人同士ではそんなお願いの仕方しないですよね」って言いますけど、「大人同士じゃないし!!!!」って。こっちだってその瞬間だけイライラしてるわけじゃなく、いろんなことが積み重なってきて怒ってるわけでってなります。

辻堂
 本当にそうですよね。

木下
 アンガーマネジメントの専門家は6秒待てばイライラは収まると言いますが、6秒もあったら子どもはまた何かしてるじゃないですか。そんな待ってられないんだから!

 そういう面で言うと、子育て関連の本のこうするべきとかこうあるべきみたいなのって、読み手のメンタル状況によってはすごいプレッシャーになると思うんです。でも、辻堂さんの著書『ミステリ作家、母になる』は細かい描写に〝わかる〟っていう共感というか、うちだけじゃないんだと助けになる人たくさんいるだろうなって思いました。

辻堂
 私は子育ての専門家ではないので、ありのままの姿を書いていくしかないかなと。

木下
 専門家みたいな扱いになるのは嫌ですよね。100人いれば100通りの子育てがあるわけで、その子についていちばん詳しいのは専門家よりもその子の親だと思うので。僕も「うちはこうしてる」くらいだったら言えますが、なにかアドバイスするなんてことはできないです。

 本に関しては、社会のこんなところがよくないっていう毒が若干入っていたのもよかったです。保活についても、うちも上の子で苦労したことがあったので。

辻堂
 杓子定規にやられちゃうから、理不尽に感じることが多いですよね。自治体によってさまざまですしね。

木下
 僕が住んでいる広島県福山市は、公立の幼稚園や小学校に併設されている保育所が結構あるんですけど、その保育所は2年保育が基本で、年少は別のところに入れて年中から近くの園に入れるとか、年中になるまで自宅で見る人が多分いるんです。そういう人たちは無視して待機児童0ですって。絶対いるだろうに。

辻堂
 私もどうやったら待機児童に数えてもらえるのかと思って調べたことがありますね。市内の保育所を全部書いた上で落ちたらって書いてあって。えーって。

木下
 政治家には伝わっていない細かいところが、本から伝わりました。

辻堂
 ありがとうございます。

辻堂ゆめさん×木下ゆーきさん

★おふたりの対談をぜんぶ読むならHugKumで!


【大好評発売中】
『ミステリ作家、母になる』書影

『ミステリ作家、母になる』
著/辻堂ゆめ

【お話に登場した本】
十の輪をくぐる

『十の輪をくぐる』
著/辻堂ゆめ


【お話に登場した本】
「はぶらしロケット」書影

『はぶらしロケット』
著/木下ゆーき

【こちらもおすすめ】
『トイレドライブ』書影

『トイレドライブ』
著/木下ゆーき


辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)
3児の母であり、小説家。1992年神奈川県生まれ。2015年、第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞受賞および第75回日本推理作家協会賞候補、『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補。2022年、『卒業タイムリミット』がNHK総合で連続ドラマ化。主にミステリーを執筆。
X:
@YumeTsujido Instagram: @yumetsujido 公式HP辻堂ゆめ Official Website

木下ゆーき(きのした・ゆーき) 
元シングルファーザーで3児のパパ。子育てインフルエンサー、タレントとして、ママパパに向けたクスッと笑える育児コンテンツをX・Instagram・YouTubeで発信している。チャイルドカウンセラー資格あり。SNSの総フォロワー数は200万人以上。著書に『はぶらしロケット』(Gakken)、『#ほどほど育児 失敗したっていいじゃない』(飛鳥新社)、『世界一楽しい子育てアイデア大全』(KADOKAWA)がある。
X: @kinoshitas0309  Instagram: @kinoshitayuki_official TikTok: @kinoshitayuki_official YouTube: @kinoshitayu-ki 公式HP: 「ゆーきさんち」

 

嶽本野ばらさん × 木爾チレンさん「スペシャル対談」◆ポッドキャスト【本の窓】
大ヒット記念!『探偵小石は恋しない』森バジル&書店員座談会(前編)