◎編集者コラム◎ 『十津川警部 高山本線の秘密』西村京太郎
◎編集者コラム◎
『十津川警部 高山本線の秘密』西村京太郎
トラベルミステリーというジャンルで、唯一無比の巨峰として君臨されている西村京太郎先生。高山本線も、本書解説の執筆者である山前譲氏が書かれているように『高山本線殺人事件』をはじめ、多くの作品に登場しています。
本書『十津川警部 高山本線の秘密』は、現代に起きた二つの事件が、実は太平洋戦争の闇の歴史に繋がっていくという長編小説です。ひとつは、カメラマンの夏川えりが、故郷の高山に行き、さらに廃村となったR村に足を延ばして、そこで行方不明になったという事件です。えりは、祖母の夏川勝子が太平洋戦争末期にR村で行方不明になっていた事を知り、調べに行ったのでした。
そして、東京三鷹では72歳の浅野真司が遺体で発見されます。十津川は、浅野が父親の唱えていた「永久戦争論」についての本を出そうとしていたことを知ります。それに、R村が関わっていると聞いた十津川は、高山そしてR村へ向かうのですが……。R村には何があったのか!?
十津川警部が調べを進めるうちに明らかになるのが、太平洋戦争の沖縄で行われた驚くべき戦闘の実態です。実際、アメリカ軍が沖縄に上陸して沖縄戦では、「鉄血勤皇隊」と呼ばれる、14歳から16歳の少年兵部隊が結成され、実際に戦闘に参加し多くの戦死者を出しました。少年兵を参加させたのは、日本軍史上初めてのことでした。
十津川もこう言っています。「しかし、色々調べてみると国家というものは、兵隊が足らなくなれば平気で、徴兵年齢を、低くしていく。太平洋戦争の末期になると、兵隊に徴兵できるのは17歳まで下げた。それでも兵隊が不足していれば、16歳以下でも自ら志願すれば、兵隊にできることにしてしまう。国家は、子供だって兵士として使ってしまうんだからね」
ひとたび戦争が起これば、弱い立場の子供にも多大なしわ寄せがきます。
本書を通じて、戦争の不条理さと平和の大切さを考えて欲しいという西村先生のメッセージが込められているように思います。
──『十津川警部 高山本線の秘密』担当者より